コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「――待って下さい」
ガタンと、椅子が倒れたのにもかかわらず、ブライトはそんなこと気にしている余裕はない、といった感じに騎士達に囲まれる私に、そして、この部屋にいる全員に向かって叫んだ。
騎士達の視線はブライトに集まりながらも、私を絶対ににがさまいと、睨み付けている。
「……ブライト」
「エトワール様の言ったとおり、ノックもなしに入ってきて、これはあんまりではないですか」
「こちらは、用件は伝えました。それと、皇太子殿下暗殺未遂……殺人未遂に荷担しているかも知れない人物ですので、捉えるのが当たり前かと。
「だったとしてもです。エトワール様という証拠も、まだ、彼女の侍女が犯人だという証拠も」
「証拠は出てきているじゃないですか。暗殺を指示する内容の文章が、彼女の侍女の部屋から見つかってきているのです」
と、騎士は、一歩も引かないというようにいう。帝国内で、かなり高い位置に君臨しているブライトを前にしても動じないその態度に違和感を覚えた。
この部屋で、私を擁護してくれているのは、ブライトだけだと。ここに入ってきた騎士達は、私の事を疑っている……いや、敵、悪とみないしてるのは誰がみても分かることだった。味方をする気は無いと。そして、リースの味方でもないような気がしたのだ。
(どういう……こと)
まず、状況も整理できなくて、私は混乱していた。こんな風に、奇怪、憎悪、疑惑の目を向けられるのは久々で、つかれも相まって、堪えていた涙が零れてきそうになった。でも、ここで泣いたら、泣き脅しだとか突っ込まれそうで、私は、それをグッと抑えるしかなかった。
(でも、リュシオルの部屋からって……)
絶対に違うって言い切れる。だって、リュシオルは私の親友で、私を裏切るわけ無いし、きっともう一人のエトワール・ヴィアラッテアがあらわれたとしても、見分けがつくだろう。それくらい、私は彼女を信用している。それに、彼女が裏切る理由も何もないと思っているから。
私がもし、恨まれるようなことをしていて、憎いって思っているのなら、こんなこしゃくな手は使わない女だって言うのも分かってる。彼女は、正々堂々と、いいたいことは真正面からいうし、何より陰口や、人を陥れるようなことは一切しない女だから。だから、私は彼女を信じている。
でも――
「リュシオルは、今どうしてるの」
「皇宮の地下牢です」
「何で!」
何でとは? みたいな、顔をされて、私は思わず、殴りかかってしまそうになった。でも、甲冑を纏っている彼らに殴りかかったところで、こっちが傷つくだけだし、何よりも、容疑がかけられるだけ。
けど、それを聞いて、内側からブワッと魔力が溢れてきそうになった。リュシオルは何もしていない。なのに、疑惑がかけられただけで、皇宮の地下牢にぶち込まれたって?
リースに以前、あの地下牢は罪人を閉じ込めるためのもので、かなり劣悪な環境であると聞いた。拷問器具も置いてあるとか、物騒な話を聞いて、それ以上聞きたくないと、遮ったことがあった。
もし、拷問にかけられていたら? とか、この騎士達の態度や言い方からして、容易に想像できてしまった。そんなことないよね、といいきれないのが、この状況だった。
でも、あんまりだと思う。だって、まだ疑惑の状況で。それも、私の方が、容疑者らしい容疑者として上がっているのに。どうして、リュシオルまで。
「エトワール様を連れて行くのでしたら、僕も一緒に連れて行って下さい」
「何故ですか、ブリリアント卿」
「彼女のことをみてきました。つい先日もお会いしましたし、証言者として」
「いえ、ブリリアント卿はこの部屋にいて下さい。それに、殿下の事もあります。今、貴方に席を外されると、殿下がどうなるか分かりません」
「ブライト……それは、そうだと思う」
「……エトワール様」
きっと、外にも見張りはいるだろうけど、ブライトがいてくれた方が安心だ。それに、リースはまだ完全に治っていないから、ブライトに治癒魔法をかけてもらわないと、どうなるかも分からないし。
(気持ちは嬉しいけど……)
確かに、証言者がいてくれる方がこちらとしても、容疑が晴れる可能性は高い。でも、騎士達は、ブライトのことすら怪しんでいるようで、先ほどから、彼に冷たい言葉ばかりかける。ブライトも、これ以上は強く言えないと、何故か黙ってしまう。他に、違う圧力がかけられているように。
何の? と、私が思っていると、すぐにでもその疑問は解消される。
「これは、皇帝陛下の命令です。ブリリアント卿はそのまま殿下の元を離れず治癒を続けろと。貴方にも、少し疑惑がかかっていますから」
「僕に……ですか、何の」
「ヘウンデウン教との繋がりについてです。貴方の父親は、帝国を裏切ってヘウンデウン教に寝返りました。混沌のことは仕方がなかったとは言え、これは立派な国家反逆罪です。貴方が、元侯爵の首を討ち取ったという事実がなければ、貴方も反逆者として牢に……爵位を剥奪されていたか、打ち首になっていたか……貴方自身の立場も、お忘れ無いように」
「……っ」
と、騎士に釘を刺されてしまい、ブライトは、苦しそうに顔を歪めると、膝の上で拳を握っていた。
ブライトが一番言われたくなかったことだろう。そして、ブリリアント家が、帝国で……皇帝陛下に目をつけられているという事実に、私は納得いかなかった。確かに、その一族から反逆者が出てしまえば、反逆者が出た家として烙印を押されるかも知れない。でも、ブリリアント家は、ずっとこの帝国に使えてきて、実績も確かで、戦争にも、そして帝国と魔法の反映にも力を注いでくれていた家なのだ。それを、ばっさり切り捨てる、監視下に置いているのはどうかと思ってしまう。
けれど、ブライトはそういわれてしまえば、何も返せないというように、口を閉ざしてしまう。彼にとって、一番辛いことだろうから。
(というか、皇帝陛下が?何で?)
まあ、予想はつかないわけではなかった。
きっと、私の事を、皇帝陛下は認めていないんだろう。そして、異端だと、未だに私の存在を否定し、亡き者にしたいんだろう。
小耳に挟んだ話、そして、ルーメンさんから直接聞いた話、リースと皇帝陛下の中は悪いのだとか。元々、リースは権力者や、じぶんに圧力をかけてくる大人が嫌いだった。そして、その権力をふるに使って自分に圧をかけてくる皇帝陛下とは特別仲が悪かったとか。前世の比じゃないなあと、皇帝陛下と話した翌日のリースの苛立ちを見れば分かった。
だから今回のことは、陛下の独断。
そして、リースの命なんて助かればイイとだけ思っている。そして、リースが目覚める前に、私をどうにかしようとしているのではないかと。
(……まだ、私を聖女として認めていないって風にも捉えられるけど。何で、私がそんなに邪魔なんだろう)
別に、皇帝陛下に対して何かした覚えも、じゃまをした覚えもない。でも、皇帝陛下は考えが古い人だとも聞いている。だから、私が世界を一応救ったという事実があったとしても、それを認めなくて、異端な髪色と瞳の偽物聖女という風にみているのだろう。それ以外あり得ないし、私が此の世界に召喚されたとき、あの聖女歓迎会みたいなものを別荘で開催することを決めたのも皇帝陛下だった。リースは皇族の別荘だ、といっていたが、皇帝陛下はあそこを使っていないらしく、リースが管理しているようだった。自分の所有地である、皇宮には極力私を入れたくない、というのはあの時から始まっていた。それに、当てつけのように、トワイライトの時は皇宮で式典を行って、大々的にパレードまでしていたから、私とトワイライトの扱いは誰がみても分かる、といった感じだった。
未だに、容姿のことで、聖女じゃない、偽物だって言われることは続いている。
なれたと思っていたけれど、久しぶりのその視線や、言葉に、身体は震え上がっていた。皆が私を悪者にして、気持ち悪い、あっちに行け、消えてしまっていうあの視線、空気。
何にしても、まずは、自分にかかった疑いと、リュシオルにかかった疑いを晴らさないことによっては、どうにもならない。
(嫌だけど、動けるのは私だけ……)
リースが目覚めたら、また激昂しそうだし、その前にどうにかしなければ、と私は、騎士達の方を見る。彼らは、依然として、冷たい表情のまま私を見ていた。
(良いわよ。慣れてるもの)
こんなもの、慣れちゃいけないんだろうなっていうの分かってるんだけど、そんな風に心を強く持たなければ、折れてしまいそうだったから。
ベッドで横たわる、リースをみながら、私は、必ず帰ってくるからと、強く誓って、前を向く。
「エトワール様」
「ブライト、絶対に戻ってくるし、自分にかかった疑いは、自分で晴らすから。だから、リースをよろしく」
「……分かりました」
ブライトは、何か言いたげにしていたが、自分には何も言えないと、口を閉じる。
(……ブライトにも、疑いがかかるのはいや。誰も巻き込みたくない)
私はそれを見て、騎士達に連れられリースが眠る部屋をあとにした。