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ベージュのノースリーブのサマーニットに、白のスラックスを身につけ、長い髪を左側の肩から流した早紀は、あの頃よりもさらに女性の妖艶な魅力を放っていた。
SNSで見るのとは違い、実物からはカリスマ的なオーラをビシビシと感じる。
まだ高校生だったあの頃は、そのオーラを感じ取る器官がまだ未熟だったのだろう。よくあんなに反論出来たものだと、良くも悪くも感心する。
「あなたはそこのソファで待ってて」
連れの人がいるのだろう。早紀が背後に声をかけるのと同時に、ソファに誰かが座って軋む音が聞こえた。
まさか昴くんじゃないよねーー緊張で視界が定まらなくなる。でも背後を見る勇気は出なかった。
七香がカウンターの隅の方で固まったまま動けなくなっていると、すぐ隣に早紀が立った。
「ではこちらにご記入をお願いいたします」
「はいはい」
宿泊者名簿にペンを滑らせる様子を見つめながら、七香は身動きが取れずにいた。
「夕食はどうなさいますか?」
「また部屋に届けてもらえるかしら」
「かしこまりました。ではこちらが、コテージの鍵となります。どうぞごゆっくりとお過ごしください」
「ありがとう」
早紀は満面の笑みで海舟と奈子にそう言ってから、突然七香の方に向き直った。
「あなた、さっきからこっちを見てるけど、一体なんなの?」
「えっ? い、いえ! 別に見てたわけじゃ……うっ⁈」
両手を左右に振りながら否定したが、早紀は右手を伸ばしたかと思うと、七香の顎を掴んで自分の方に向かせる。
「あの……な、なんでしょうか……?」
気まずくなって顔を逸らした途端、早紀は大きく目を見開いた。それから泣き顔を見られないよう下ろしていた七香の髪をぐいっと握りしめた。
「あなた……あの時の生意気女子高生アルバイト!」
「私のこと、そんな呼び方してたんですか」
思わず頬がピクッと上がる。
「事実じゃない。ずいぶん大人になっちゃってー。まさかまだバイトしてるの?」
「今日はただの宿泊客です」
「あら、そうなの」
七香が早紀の背後にいる人物を気にしていることがわかったのか、早紀は不敵な笑みを浮かべた。
「気になる? そうよねぇ、あなた、昴に御執心だったし」
「別にそんなことは……」
「そうかしら? まぁでも安心して。昴じゃないから」
関係ないという顔をしながらも、昴ではないことを知って安堵した。
「そうですか……」
「それに……びっくりするくらいタイムリーな再会ね。昨日ちょうど昴とお別れしたのよ」
「……えっ⁈」
「あはは! 一体何に対する驚き? 相変わらずねぇ。じゃあ私はそろそろ行くわ。行きましょう、|克己《かつみ》さん」
早紀は笑いながらソファに座る男性に声をかけた。荷物を持って立ち上がった男性は四十代後半くらいで、短めの黒髪に細く切れ長な瞳。薄いブルーのシャツに、白いスラックスをあわせ、胸元にゴールドのメダルがついたネックレスをつけていて、どこかスタイリッシュな印象を受ける男性だった。
二人は互いの腰に手を回し、コテージに向かって歩き始めた。
なんだか怒涛の時間だったーーどっと疲労感が増した七香は、大きなため息をついて海舟と奈子を見た。そこでようやく二人の態度の意味を理解した。
「わかった。さっきのって、早紀さんのことを私に伝えようとしてくれたんだね」
すると奈子が苦笑する。
「うん……言う前に来ちゃったから意味なかったけど……。気分は大丈夫?」
「ん? うん、大丈夫」
「あぁ、それなら良かったー」
そう、気分は悪くはなかった。それよりも早紀の言葉が気になって仕方なかった。
昨日別れた? 私が家を飛び出したのが一昨日の夜。それから二人の間に一体何があったのだろうーー意味がわからず、ただただ困惑する。だからと言って昴に聞くことも出来ず、心のモヤモヤを晴らすことは出来なかった。
白山小梅
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