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東野は俺と小山を病院に連れて行くよう手配した後、すぐに玖路斗学苑と連絡を取ったのだそうだ。小山が起こした騒動についての説明と、受験票を無くしてしまった俺の扱いについて確認してくれたらしい。
東野って……こんなふざけた格好してるけど、実は結構偉い人だったらどうしよう。
「透のために僕頑張ったんだよ。学苑のヤツらって頭固くてさ……。規則も大事かもしれないけど、状況に応じて柔軟に対応することも必要なのにね。最後までぐだぐたとうるさいもんだから、危うく手が出そうになっちゃったよ」
「えっ!? ケンカしたんですか」
「しそうになっただけ。ちゃんと穏便に解決したから心配しないで」
東野は両手をひらひらと振りながら問題無いと言うが、俺の対応でかなり揉めたのだろう。試験が受けられるのは嬉しいけど、その代わりに東野の立場が悪くなってしまうのは本意ではない。
「東野さん……それってホントに大丈夫なの? 俺のせいで怒られたんじゃないの。降格されたり給料減らされたりしてない?」
「えっ?」
「だってケンカしそうになったって言うから……勤務態度が悪いって、そういうのに影響したりしないの? ボーナス無くなったりとかさ……」
「あはははっ!! 僕にそんな心配をしてくれるのは透だけだよ。ボーナスって……やべー、ウケる」
そんなに変なこと言っただろうか。東野は大声で笑っている。顔が見えていたら涙を流していたに違いない。
「はー……おかしい。透は面白い子だね」
「……そうかな。普通だと思うよ」
ひとしきり笑って満足したようだ。減給も降格もされてないから安心しろと、東野は言う。笑い過ぎて息切れしてんじゃん……腹立つな。
「ごめん、ごめん。怒らないで。それじゃあ……透の今後の身の振り方について詳しく説明するからねー」
「あっ、待って! 東野さん。あのさ……俺の試験も気になるけど、小山の事を先に教えて貰えないかな。アイツこれからどうなるの?」
「全くキミって子は……自分が大変な時も人の心配ばっかりしてるね。性分なのかな」
さっきまでゲラゲラと笑ってた癖に……東野は困ったように息を吐くと、俺の頭を撫でた。突然普通の大人みたいになるのはよして欲しい。俺の中での東野は仮装した変なおっさんというイメージが根強いため、こういう事をされるとむず痒い。
「結論を言うと、小山空太は玖路斗学苑への受験資格を永久に剥奪されることになった。この先いくら勉強をして技術を磨いたとしても特待生はおろか、一般生徒としても学苑が彼を迎え入れることはない」
「……そうなんだ」
結構重い罰を受けるのではと思っていたけど予想以上だった。小山はあれだけ特待生になる事に拘っていたのに……この仕打ちは相当堪えるのではないだろうか。
「これでもかなり軽い処分なんだ。学苑に入学出来ないってだけなんだからね。魔道士の資格試験自体は受けられる。でもまぁ……小山少年はヴィータを極限まで消費した後遺症が残るだろうから、かなり厳しいだろうけどね」
本来なら小山にはもっと厳しい処分が下されていたという。それを東野が減軽するよう働きかけてくれたそうだ。
学苑に通わなくても魔道士にはなれる。資格試験に合格すればいいのだ。でも、独学でやるのには限界があるし、学苑のサポートが無いとなると相当苦労することになるだろう。その上後遺症だなんて……日常生活を送るのに支障はないそうだから、それは良かったけど……
小山の自業自得と言ってしまえばそれまでだ。でもやはり複雑な気分になってしまう。こんな風に俺に気遣われるのもアイツは嫌なんだろうな。
「……透。君が責任を感じることは何ひとつないんだよ。難しいかもしれないけど、自分のことだけに集中しな。二次試験までもうあまり時間もないんだから」
「うん……そうだね」
東野が学苑とケンカ未遂までして繋いでくれたチャンスなのだ。それを無駄にするわけにはいかない。いつまでも凹んでいないで気持ちを切り替えないと――――
「それで、透の今後の扱いなんだけどね……二次試験を受けることは出来る。でも、いくつか注意して貰うことがあるんだよ。君が本来持っていた『一次試験の合格者』という肩書きはもう無くなってしまったんだ」
東野が言うには……『如何なる理由であれ、受験票を紛失した者に試験を受けさせることはない』という学苑のルールを曲げることは出来なかったらしい。受験票を無くした時点で俺は不合格扱いになってしまうのだと……
「だけど、それではあまりに透が不憫だろ。通常の流れで試験が受けられないのなら、もうひとつの方法で受験資格を得るしかない」
「もうひとつの方法……そんなのあるの?」
「うん。これは公にはされていないんだけどね、学苑の特待生には講師推薦枠というのがあるんだ」
玖路斗学苑の特待生になるには、学苑が年に一度行う入学試験に合格する必要がある。年齢制限などもなく、広く一般から希望者を募っていて、俺と小山が申し込んだのはこれ。東野が言う通常の流れだ。
「学苑に籍を置いている魔道士は、後進の育成も重要な仕事なんだよ。才能のある人材をスカウトしたり、自身の弟子を学苑へ入学させたり……講師推薦はそのための制度なんだ。学苑の魔道士から推薦を受けた者は、一次試験を免除で特待試験に挑むことができる」
学苑で講師として働いている魔道士という信頼できる筋からの紹介。この時点でそれなりの実力があるという判断がなされる。よって、被推薦者に対しての試験はあってないようなもので、ほぼ合格になるそうだ。
学苑としては被推薦者のみを特待生として扱いたいらしいけど、そう都合良く人材が集まるわけがない。だから一般からの募集も同時に行い、試験を実地しているのが現状なのだと……
「あのさ。まさかとは思うけど、東野さん……その推薦枠っていうのに……」
「うん、僕の名前で透を推薦しといた。僕は正式には講師じゃないから、その辺の手続きでちょっとだけ揉めたけど、ゴリ押ししてやったさ」
「俺が推薦……? 東野さんの」
「そう。キミになら僕の名前を使ってもいいと判断した。間違いなく合格すると確信している。だから胸を張って堂々と試験に挑んでね」
「マジか……」