第5話:タエコ、処方室へ
🍳 シーン1:ナミコ不在の朝
朝の碧診区、処方室。
調理台の端末に「非常勤欠勤」の報告が浮かぶ。
「……ナミコちゃん、倒れとるんかいな」
頭にタオルを巻き、大きなエプロン姿で現れたのは、タエコ。
ややふくよかな体型に、くるくる動く目。関西弁まじりの口調で手際よく調理器具を並べる。
「ほな、ウチが代わりにやったる。戦場の台所で鍋振っとったんは伊達やあらへん」
メディすずかが端末越しに確認する。
「代行登録完了。タエコ=非常勤・応急調理ユニット、承認」
🫕 シーン2:処方される、温もり
今日の患者は、術後の共鳴抑制中の少女・ネミ。
感情安定フラクタルと栄養補給を兼ねた処方が必要とされていた。
「心がふわふわしとるときはな、ちょっとだけ“噛みごたえ”がある方がええんや」
タエコは「碧根野菜のとろ煮」に、フラクタルを少しだけ注入。
《COOK_MODE=SOFT》《EMOTION=STABLE》
《TRACE=HOME》
やさしい香りが処方室いっぱいに広がる。
仕上げには、母のような甘い語りかけ。
「ごはんはな、ちゃんと“今”を感じさせるんやで」
🛏️ シーン3:届けられるぬくもり
ネミのもとに運ばれた処方食は、ぬるめの温度。
スプーンを口に運んだ瞬間、少女はふっと涙を浮かべた。
「……なんか、安心する……」
ユレイが処置を終えた後に一言。
「タエコさん、やっぱり“医療”もできる人やったんですね」
タエコは鍋のふたを閉じながら、ぽんと肩をすくめた。
「ウチかてな、命がかかっとる現場、いっぱい見てきたんや。 食べるいうのはな、“生きたい”って証やからな」
🤍 シーン4:すずかAIとの対話
処方室の隅で、メディすずかが端末にそっと呟く。
「記録完了。処方フラクタル:成功率92%。
なお、患者の安静指数が想定より高く安定」
タエコはタオルで汗を拭きながら笑う。
「またウチ呼ばれるんやろなぁ……ナミコに内緒でレシピ置いとこ」
医療も、料理も、命のためにある。
だからタエコは、今日も“温かい”を作る。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!