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## 第21話:鋼鉄の家族
砂漠の猛威、グランド・ゴライアスとの死闘から数時間。巨大陸上戦艦『ゼスト』は、追撃を振り切るため進路を北西に変え、複雑な岩礁地帯の影へとその巨体を滑り込ませた。巨大な無限軌道が停止し、砂塵がゆっくりと地上へ降り積もる。
プロト・ウイングエックスとヴィヴァーチェは、ゼスト後部の巨大なハッチから格納庫内へと収容された。重厚なハッチが閉まり、人工光が機体を照らし出す。
「……ここが、あんたらの『家』か。随分と広っ苦しい家だな」
コクピットから降り立ったゼロ・ドラートは、生意気な口調を崩さずに周囲を見渡した。隣には、不安げに彼のシャツの裾を掴むミラがいる。
出迎えたのは、武装した兵士ではなく、油汚れにまみれたツナギを着た整備士や、炊き出しの準備を急ぐ女性、そして好奇心と恐怖が混じった目でこちらを見つめる子供たちだった。
だが、その場の空気は一瞬にして凍りついた。
格納庫に集まっていた40代以上のベテラン整備士や乗組員たちが、ゼロの背後にそびえ立つ白い機体――プロト・ウイングエックスを見上げた瞬間、その顔から血の気が引いた。
「……まさか、嘘だろ……」
「あの悪魔が、なぜここに……」
震える声が漏れる。彼らにとって、その機体は20年前の戦争で「地獄そのもの」を体現した存在だった。パイロットの脳を焼き、次々と廃人へと追い込み、最後には禁忌の「サテライトキャノン」をただ一度放つことで、地図から一つの街を完全に消滅させた史上最悪の兵器。
そこへ、足音を響かせて一人の男が現れた。ゼストの艦長だ。彼は50代特有の重厚な威圧感を放ちながら、まずはウイングエックスを、そしてその横に立つ少女、ミラを凝視した。
「……機体だけではない。その娘もか」
艦長の言葉に、ゼロが眉をひそめる。
「ミラを知ってるのか?」
「知っているどころではない。生まれつきのニュータイプとして実験施設に囚われ、20年前、あの機体と共にコールドスリープに処された……伝説の『鍵』だ。あの日から、歴史は止まっていたはずなのだがな」
ミラは何も答えず、ただ俯いて無言を貫いた。彼女の心は、自分を「鍵」や「兵器」として見る視線の痛みに、再び固く閉ざされようとしていた。
「おい、オッサン。ジロジロ見てんじゃねえよ」
ゼロが割り込むように艦長の前に立った。
「坊主。……いや、パイロットと言い換えるべきか。お前は、自分が何に乗っているか分かっているのか? これはただのモビルスーツではない。過去を焼き尽くした死神だぞ」
「ああ、ガドルフのじいさんから聞いたよ。呪われてるとかなんとか。だがな、俺にとっては俺とミラを助けてくれた、ただの相棒だ」
「ガドルフだと?」
艦長がわずかに目を見開く。その厳格な顔に、驚きと懐旧の念が混じり合った。
「……あの偏屈な男が、まだ生きていたとはな。かつての旧友だ。奴が手を貸したというなら、この再会も運命というわけか」
艦長は深いため息をつき、周囲の乗組員たちを見渡した。怯える古参の者たち、事情を知らずに目を輝かせる若者たち。
「いいか、皆。こいつらは客人だ。……今はまだな。だが、この艦で過ごす以上、食う分は働いてもらう」
不穏でぎこちない空気の中、ゼロたちは艦内の案内を受けることになった。
ゼストの内部は、10代から60代までの老若男女が入り乱れる、まさに一つの「街」だった。廊下ですれ違う若者はゼロに興味津々で話しかけようとし、老婆はミラにそっと毛布を差し出す。
案内された格納庫のさらに奥。そこにはヴィヴァーチェ以外に、重厚な装甲を持つ『ガンダム・バスターヴァイス』と、細身で鋭利な『ガンダム・シャドウエッジ』の二機が並んでいた。
「……他にもあんのかよ、ガンダムが」
「当然よ。私が一人で戦ってたと思ってたの?」
いつの間にか現れたセレスが、少し自慢げに顎を引いた。
その横には、二人の青年が立っていた。彼らはこの戦艦で共に過ごしてきたガンダム乗りだ。既に何度も実戦を経験しているらしく、ゼロを「新入り」として品定めするように見つめている。
「ガンダム乗りが、あと二人……。けっ、賑やかなこった」
ゼロは生意気に鼻を鳴らすが、内心ではこの艦が持つ戦力に驚いていた。
その時、ウイングエックスの足元に駆け寄る一人の若い女性がいた。20代前半の、快活な雰囲気を持つ整備長だ。彼女はウイングエックスの脚部装甲を舐めるように見つめ、感嘆の声を上げる。
「うっわぁ……これがおとぎ話の……『呪いのウイング』? マジで現存してたんだ。信じらんない!」
彼女はゼロに詰め寄ると、瞳を輝かせた。
「ねえパイロット君! これ、あとでバラさせて! 内部構造どうなってんの? ゼロシステムとサテライトシステムの回路、直接拝めるなんて整備士冥利につきるわ!」
「お、おい! バラすとか不吉なこと言うんじゃねえよ、整備長!」
ゼロの困惑を余所に、整備長は既にWXの脚部に潜り込もうとしている。
少しだけ、場の重苦しい空気が緩和された。
しかし、ミラだけは違っていた。
彼女は自分を見る大人たちの「怯え」を感じ取っていた。20年前、世界を滅ぼしかけた少女。自分に向けられる慈しみの中に、消せない恐怖の色が混じっているのを。
ゼロは、そんなミラの震える手に、自分の大きな手を重ねた。
「……大丈夫だ、ミラ。俺がついてる。どんなにここの連中が怖がろうが、俺がお前を守るって決めたんだ」
ミラの瞳が微かに揺れ、ゼロを見つめる。
返事はなかった。けれど、彼女の手はゼロの服をぎゅっと握り返した。
ゼストは、帰る場所のない者たちの終着駅。
だが、この白い死神と、心なき少女を乗せた戦艦が、再び嵐の中へと漕ぎ出すのは時間の問題だった。
艦橋のモニターには、遠く離れた砂漠の彼方で、ルカス・ギルモアの軍勢が、まるで意思を持つ巨大な壁のようにこちらへ迫る様子が映し出されていた。
**次回予告**
ゼストの日常に溶け込もうとするゼロとミラ。
そんな2人に手を差し伸べるセレス達、しかし心を閉ざしてしまうミラに2人は苦戦を強いられる。
次回、『鋼のゆりかごの日常』
「…ったく、こうもなると参ったもんだぜ」