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異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―

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20 - 第三章 双界の連続殺人 第20話 揺れる境界、船出の朝

2025年11月15日

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 第三章 双界の連続殺人第20話 「揺れる境界、船出の朝」


 潮の匂いが朝の空気を満たしていた。


 白い霧が港湾ターミナルを包み、巨大な船体の輪郭を淡く隠す。


 ガラス壁に反射した朝陽がゆらぎ、人々の影が水面のように揺れる。


 甲板の縁から立つ白い蒸気は、世界と世界の境界をぼかすヴェールのようだった。


 全長三百二十メートル。乗客八百名。


 プール、劇場、カジノ、図書館まで揃えた“海の都市”。


 ――「観光豪華客船《オルフェウス》号、間もなく出航いたします。」


 雲賀サキは、当選した搭乗チケットを高く掲げて叫んだ。


 「見て見て! 本当に当たっちゃったんだよ! 懸賞って当たるんだね!」


 ハレルは苦笑して肩をすくめる。


 「……お前の運、こういうところだけ強いんだよな」


 サキの声がふっと落ちる。


 「涼さんも来られればよかったのになーー。


  ほら、あっちから戻ったあと、少し笑顔も増えてきてたしさ……」


 その言葉に、ハレルの胸が少し痛んだ。


 ――アメ=レアの事件から約三週間。


 姉・ユナは意識こそ戻らないが“生存”が確認された。


 涼(リオ)も以前より穏やかな表情を見せるようになった。


 それでも、あの日のことを忘れられるはずもなく――


 そして出発2日前。


 涼はアデルに呼び出され、異世界の「絶海の孤島の城」で行われる訓練に参加することが決まった。


 毎年、剣技・魔術・捕縛術などの総合訓練が行われる場。


 リオは“捕縛魔術の習得”が課題となっていた。


 その理由も、行き先も、涼自身がハレルに説明していた。

 ――『ごめん。どうしても参加しないといけない訓練がある。


    でも、スマホは繋がると思う。境界が安定してれば、だけど』


 境界が安定していれば――


 その言葉が、頭の片隅にひっかかっていた。


 背後から木崎が片手を上げて歩いてきた。


 「おい、置いてくな。荷物持ってやるから、さっさと乗り込むぞ」


 サキが笑顔を向ける。
「木崎さん、来てくれてほんと助かります!」


 木崎は肩をすくめ、小声で言った。


 「涼くんに頼まれてな。『サキちゃんを頼む』ってよ。


  ……まあ俺としても調べたいことがあるが」


 ハレルが眉をひそめると、木崎の表情がわずかに硬くなった。


■現実・オルフェウス号 乗船口


 「ハレル。あの時の“死亡登録9名”の件だけどな……」


 木崎はスマホをスクロールさせながら続けた。


 「4名は遺体で見つかり、例の“首筋の痣”があった。


  残り5名は今も行方不明。他にも行方不明者は多数いる」


 サキが不安げに息を呑む。


 「大丈夫……?また前みたいなこと起こったらやだな」


 ハレルは妹の頭を軽く撫でた。


 「大丈夫だ。……俺たちが、そんなこと絶対させない」


 ふと胸元のネックレスへ触れる。


 冷たい金属が、心臓の鼓動に合わせるようにかすかに熱を帯びていた。


 ◆ ◆ ◆


■異世界・王都イルダ近海 絶海の孤島


 海風が砂を巻き上げる。


 白い砂浜の向こうに立つ古城は、どこか時間の流れから切り離されたようだった。


 リオは転移直後の場所を見回しながら小さく息をつく。


 (本来なら、王都の結界塔に出るはずだったが……
 

 少しだけ位置がズレたか。境界が揺れている影響だな)


 転移の“微妙なズレ”。


 それは経験を重ねないと分からない感覚だった。


 背後から静かな声が響く。


 「リオ=アーデン、予定通り到着したな」


 アデルが歩いてきた。


 白い外套を翻し、腰には銀の剣。


 金属のような瞳が冷たい光を帯びている。


 「今回の訓練は一週間。君は捕縛魔術が課題だ」


 「……わかっています」


 リオは落ち着いた口調で答える。


 アデルはじっとリオを見つめ、少しだけ目を細めた。

 
「前に“転移者ハレル”を逃がしてしまった責任は、いまでも私の肩に乗っている。


  だからこそ――リオ。


  絶対にこの課題に合格できるように頼むぞ。


  君をここへ呼んだのは、そのためだ」


 リオは姿勢を正し、静かに頷く。

 
「……任せてください。必ず習得します」


 その瞬間、リオのスマホが震えた。


 ハレルからの短いメッセージだ。


 『船、これから乗る。無事に行けよ』


 リオは画面を見て口元を緩めた。


 (ハレル……そっちも気をつけろ)


 スマホの画面を見つめるリオを、アデルが横目でちらりと見る。

 
「ハレルからか?」

 

 リオはわずかに目を細める。

 
「……ええ。向こうの世界で、僕を助けてくれた大切な友人です」

 

 アデルは歩みを止め、白い外套を揺らして振り返った。

 
「境界はまだ不安定だ。
 それでも通信が届くのは――セラの力が働いている証拠だろう」

 

 「はい。完全ではありませんが……まだ、繋がっています」


 アデルは短く息を吐く。

 
「ならば、なおさら急がねばならん。


 境界が保っているうちに、学べることをすべて学べ。


 ――リオ=アーデン」

 

 リオは拳を握り、はっきりと頷いた。

 
「はい、アデル」


■現実・オルフェウス号 甲板前


 サキは大きく伸びをして歓声をあげた。


 「お兄ちゃん、すごいよ! ほんとに海の上の街みたい!」


 木崎も満足げに見回す。


 「こりゃ迷うな。事件が起きなきゃ、最高の旅だが……」


 ハレルは階段に足をかけながら、ふっと立ち止まった。


 ――胸元のネックレスが、**「カチリ」**と微かに鳴った。


 ほんの一瞬、青白い光が灯る。


 木崎が眉を上げる。


 「どうした?」


 「……なんでもないよ」


 しかし胸の奥では、説明できないざわつきが渦を巻いていた。


 (この船で――何かが起こる)


 その予感は、海風よりも冷たく、確かだった。


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