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高木常務の逮捕
その衝撃は直樹の元勤務先を震わせ、会社側は不祥事の火消しに躍起になっていた。
そんな中、私の元に「直樹がデスクに残した私物を引き取ってほしい」という連絡が入った。
「……もう、関わりたくないのに」
そう思いながらも、私は送られてきた段ボール一箱分の荷物を受け取った。
中には、使い古された文房具や、直樹がかつての栄光を誇示するように飾っていた営業成績のトロフィー。
そして——。
一冊の、古びた小さな手帳が入っていた。
それは、結婚当初に私が彼へプレゼントしたスケジュール帳だった。
懐かしさよりも重苦しさを感じながらページをめくると
そこには仕事の予定に混じって、殴り書きのようなメモが残されていた。
『詩織が作ってくれた弁当、美味かった。でも、素直に言えない。俺が上でいないと、この家庭は壊れる気がする。……強く当たれば当たるほど、詩織が俺を頼ってくれる気がして、止められない』
私の指が止まる。
そこにあったのは
支配することでしか愛を確認できなかった、一人の男のあまりにも歪で未熟な独白だった。
『莉奈に誘われた。……詩織にバレるのが怖い。でも、会社での俺を評価してくれるのは莉奈だけだ。詩織の前では、俺はただの「夫」でしかない。……俺は、特別でありたいんだ』
読み進めるほどに、怒りよりも先に、深い虚しさが込み上げてくる。
直樹は、自分自身の弱さを隠すために「1円の誤差」という武器で私を殴り続け
自分を「特別」だと思い込ませてくれる虚像に溺れていったのだ。
手帳の最後の方には、最近書かれたと思われる、震える文字のメモがあった。
『……貯金、200万引き出した。これで莉奈を繋ぎ止められる。詩織には、また嘘をつく。……いつから、俺たちの家計簿は、こんなに泥沼になったんだろうな』
私は、その手帳を静かに閉じた。
かつて愛した人が、これほどまでに脆く、浅ましく、そして「哀れ」な存在だったという事実。
それが、どんな罵詈雑言よりも深く、私の胸を突いた。
「……遅いのよ、直樹。もう、何もかも」
もし、あの時
1円のミスを責める代わりに、一緒に笑い合えていたら。
もし、彼が自分の弱さを認めて、私に寄り添ってくれていたら。
けれど、時計の針は二度と戻らない。
私は、その手帳をシュレッダーにかけた。
細切れになっていく直樹の「本心」を眺めながら
心の中に澱のように溜まっていた最後の「未練」が、静かに消えていくのを感じた。
その日の夜
私は新しい家計簿を開いた。
そこには、陽太の進学費、二人で出かける旅行の計画
そして自分のスキルアップのための投資。
未来へ向かう、前向きな数字だけが並んでいる。
「ママ、何書いてるの?」
陽太が横から覗き込んできた。
「これからの、私たちの『自由』の記録よ」
私は微笑み、ペンを置いた。
直樹、莉奈、高木。
彼らの人生が檻の中で停滞していく一方で、私の人生は、一秒ごとに新しく更新されていく。
【残り77日】