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私にとって雛瀬さんは、邪魔者でしかなかった。一応表面上、周りの目もあるし、仲良くしておくが、極力話したくなかった。
(まあ仕事以外の話を彼女とはしたことないから、今日も大丈夫だと思うけど…)
そんなことを考えながら帰ろうとした。
「あのっ…!!お話があるのですが…いいですか?」
ところが、彼女の声が阻止した。
凛とした声は少し離れた距離でも充分届いた。
背中を、妙な緊張感が伝っていく。何故こんな時に?何が目的?
疑問しか頭に浮かばない。だが、ずっと立ち止まっているわけにもいかない。
とりあえず、振り返って愛想笑いを浮かべる。
「な、何ですかー?電車の時間があるからあんまり…」
「藤塚さんって店長のことお好きなんですか?」
「っ……」
心臓が鈍い音をたてて脈打つ。あまりにも突然すぎる言動に身体が麻痺する。
何でこの人にそんなことを言われているのだろう。いや、それよりも何故バレた…?
だって、仕事中はいつも通り猫を被っていた。完璧だったはずなのに。
よりによって一番接点のない人に気づかれるはずがない。
頭で必死に冷静になろうとするが、思考回路は完全に狂ってしまい、手足をぴくりとも動かせない。
落ち着け…。そんなことバレるわけないんだ。今の段階ではただの世間話。さりげなく聞いてきただけかもしれない。
私と、仲良くなるために。
いつも通り接すれば大丈夫…
私は必死に言い聞かせ、なんとか身体に舞い込んだ酸素を小さく吸う。
ようやく頭が冷静になってきた。多分、時間にすればほんの数秒。
しかし私には、永遠に時が止まったかのような感覚に陥っていた。