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💙青椒肉絲🧡
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「おや、お客さん?」
警察署から探偵事務所の前まで歩いたところで、道を掃除していた男性に声をかけられた。
「おー! だて! お疲れ様やでぇ」
誰か分からないのでとりあえず会釈をしておく。男性も会釈を返してくれた。
「彼は俺の探偵事務所の一階でカフェやっとるマスター兼大家さん! その名もだて!」
「だてはニックネームね。初めまして。ここの一階で『Date-Cafe』という喫茶店を経営しています、宮舘涼太です。彼とか、仲の良いお客さんからはだてって呼ばれてます。どうぞよろしく」
「阿部亮平です、よろしくお願いします……」
キラキラとしたオーラを纏っており、少し圧倒される。料理にはかなりこだわっているのか、看板にあるメニューの数がとてつもなく多い。……いや、メニュー名が長いだけ?
「だての料理めっちゃ美味しいねん! 良かったら今度食べてみて?」
「ぜひ!」
「ハハッ、いつでも待ってるよ」
気品あふれる仕草でそう言うと、宮舘さんは颯爽と去っていった。歩いている場所がまるでレッドカーペットのように見える。
「俺のおすすめは青椒肉絲。おかんの味まんまやねん」
「そうなんですね」
喫茶店横の外階段を登りながら、俺のお腹はクウと小さく鳴った。
「おし、じゃあ今日の結果報告な!」
コーヒーと少しのチョコレートを机に出しながら、向井さんは自信満々に言った。
「えーと、まずは……この事件、俺の専門とする妖怪が絶対関わっとる」
「妖怪……?」
「あ、説明してなかったな。この事務所は“怪異”を専門に取り扱ってるんよ。妖怪とか幽霊とかそう言う類のやつな」
「そう、だったんですね……」
怪異専門……あんまり聞いた事のない専門領域だ。妖怪とか幽霊なんて本当にいるのか疑問だったけど、現に不可解なことが起こっているので信じざるを得ない。なんとなくこの探偵事務所を選んだけど、そんなよく分からないものが原因ならここにして良かったなと思う。
「今んとこ、俺はかまいたちって言う妖怪の仕業やと思っとる」
「かまいたち?」
名前は聞いたことあるけど……
「かまいたちは風の妖怪で、つむじ風と一緒に現れては人間の体を痛みを感じさせることなく切るねん。風の有無は分からんけど、特徴が一致してるから大まかにはそうちゃうかと睨んでる」
「……確かに、俺の逢った被害と一致しますね」
風が吹いているかなんて気にしたことなかった。そういうなんでもない現象も特定に繋がるんだ。
「せやろ? あとそれともう1つ。他に被害者がいないことから、かまいたちの狙いは良くも悪くも阿部くんだけや」
「狙いは、俺だけ……」
俺だけが妖怪に狙われている?
「一応確認やねんけど、祠壊したとかそんなことしてへんよな?」
「はい、してないです」
「そうよな……なら、考えられることはさらに2つ」
そう言って、向井さんは机に2枚のハートのクッキーを置く。
「1つ目。シンプルに阿部くんのことを気に入った」
向井さんはクッキーを1枚こちら側に押し出す。
「2つ目。阿部くんの自覚がないほどちょっとしたことで、恨みを持って狙ってる」
向井さんはもう1つのクッキーも押し出したかと思えば、指でハートの中心を突き、割った。
「優しそうな阿部くんのことやから、前者であってほしいけど……優しさのあまり誰かを傷つけてることも、たまにある」
向井さんの言葉は、事件のことというよりも俺自身のこととして深く胸に残る。向井さんもかなり優しいように見えるし、もしかしたら実体験……? 俺に注意喚起をしてくれているのだと受け取る。
「俺はこのまま調査を続けるけど、阿部くんは1回家戻りぃ。会社の仕事あったりするやろ?」
「あ、ほんとだ……」
事件のことに気を取られて、仕事があることを忘れていた。時刻はまもなく午後6時。勤めている会社の定時と同じくらいだ。
「じゃあすみません、この後はお任せします……」
「おん! また何かあったら連絡するわな!」
俺は向井さんに見送られ、探偵事務所を出た。
この日の帰り道は、体も荷物も無傷だった。
次の日。
朝食を食べながらニュースを見ていると、思いもよらないことを知った。
『次のニュースです。昨夜1時頃、〜〜市の@@区で、通り魔による殺害事件が発生しました。犯行には鎌のようなものが使われたと見られており、未だ犯人は見つかっていません。警察は、犯人の行方を追っています』
「……え?」
鎌で殺害って……昨日聞いた妖怪の名前、かまいたちだよな? もしかしてこの事件、この妖怪が関係してるんじゃ……
そこまで考えたところで、俺のスマホの着信音が鳴った。
「向井さん……」
「阿部くん! 良かった、生きとるな!」
「え、その言い方って……」
そんな、本当にかまいたちが?
「阿部くん、ちょっと大変なことになった。今すぐ事務所来てくれる? 出勤前に、ちょっとだけで良いから」
時計を確認して、出勤までの時間を計算する。……大丈夫、間に合う。
「わかりました。俺もちょうど聞きたいことがあったんです」
「良かった! じゃあ、阿部くんの準備出来次第でええから!」
それだけ言い残すと、少し慌てた様子で電話が切られた。
「ニュースのこと、ですよね?」
探偵事務所に入ってすぐ、俺は向井さんに単刀直入に言った。
「妖怪が殺人するなんて聞いてないですよ?」
「俺もこんなこと初めてやねん!」
いつになく慌てた様子で向井さんが言う。
「かまいたちって、ちょっとしたイタズラをするばっかりで、人を殺したりとかしない妖怪のはずなんよ。でも今回のこの事件、遺体の出血跡から妖気を確認して……」
「妖気が……って、え? 遺体確認したんですか?」
「え? おん。こーちに言って見せてもらってん」
当たり前やろ? とでも言いたげな顔で向井さんは言う。そんな簡単に外部の人間に遺体見せちゃダメでしょ、と思いつつ、向井さんと髙地刑事の関係性だからこそな部分もあるのだろうと納得する。
「でもその妖気が、まだかまいたちのものやとは分かってないねん。だから、かまいたちに前から狙われてた阿部くんは人より十分気をつけるようにって、言っとこうと思って」
「なるほど、そういうことですね」
これだけなら電話でも良かった気はするが、内容が内容だし他の誰かに聞かれると良くないのだろう。
「なんか危険なことあったら……」
向井さんはそう言って、机の引き出しから何かを取り出す。
「それは?」
「んー、まあ言えばお守りかな! これ握って俺の名前呼んでくれたら、すぐどこにでも行くから」
「あ、ありがとうございます」
仕事までの時間が無くなってきたので、あまり深く考えずにお守りだというものを受け取る。
「んじゃ、お仕事頑張って!」
「はい。ありがとうございます!」
1階まで見送ってくれた向井さんに手を振りつつ、俺は会社への道を急いだ。
コメント
1件
読了したよ〜!😭✨ 今回は探偵事務所の雰囲気とか、かまいたちの解説がすごく分かりやすくて世界観にぐっと入り込めた!🦋💕 特に「ハートのクッキー割る」演出、めっちゃエモくて心に刺さった…優しさの裏で誰かを傷つけてることあるって向井さんの言葉、重いけど大事なメッセージだよね。 最後の「お守り」がどう活きるのか、続きが気になって仕方ない!!📖🌸