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 目が覚めると、白い天井が視界に入ってきた。
 昨日までの俺とはまるで違う、病衣に鼻カニューレ。
 急にれっきとした“病人”だ。
 点滴と繋がれた腕を見ると、以前と比べて少し細くなったように感じる。
 もう、終わりかな…なんて
 俺は複雑で気持ち悪くなりそうな思考を一旦止め、心臓を休めた。
 
 翌日、鼻カニューレがとれた俺は散歩をしていた。
 胸が痛くない時は正直暇でしかない。
 ボーッとしながら歩いていると、中庭でスケッチブックを広げている青年に目が止まった。
 少し苦しそうに呼吸をしながら、ベンチで絵を描いている。
 彼は透明感がありすぎる肌のせいか、儚げな空気を纏っていた。
 しかし、斜め下を向いて、前髪で少し隠れた目には生気がないような、独特な雰囲気を発していた。
 俺はバレないように彼の背後から絵を覗き込んだ。
 美しい猫の絵。俺は一瞬で目を奪われ、
 「猫、好きなの?」
 と声をかけていた。
 しかし彼は無反応。
 もう一度声をかけると、ようやくこちらを向いた。
 『え..俺?』
 「うん。猫、好きなの? 」
 俺が聞くと、彼は素っ気なく下を向いて
 『君には関係ないし、別に言わなくていいでしょ。』
 そう言った。
 「関係あるよ。俺はもう君の絵、好きだから。」
 俺がそう言うと、彼は少し目を開いて俺の顔を見た後、俺の点滴をゆっくりと見た。
 『ぁ..』
 彼はなぜか少し寂しそうな顔をした後、少し間をおいてから 俺の質問に答え始めた。
 『猫、嫌いだよ。』
 「嫌いなのになんで描いてるの?」
 『…会いたいから。』
 「会いたい?誰に?」
 『飼ってた猫。1年前に死んじゃった猫。』
 「そう..だったんだ。」
 『おかしいよね笑 1年も経ったのに、今でもあの子のことが頭から離れてくれない。だから絵を描き続けてる。もう好きでもないのに』
 「なにもおかしくないよ。良いと思う。忘れない方が、その子の為でもあると思うから。」
 『ありがとう…そんなこと言ってくれるの君だけだよ。』
 「嘘だよ。そんな事ないでしょ」
 『嘘じゃないって』
 その時、彼が苦しそうに胸を抑えた。
 『ぅ…』
 「大丈夫?」
 俺はそう言いながら彼の背中をさすると、彼は申し訳なさそうに手をどけた。
 『心配してくていい。俺の事なんて..ほっといて』
 「ほっとけないよ!もうこんなに話したんだから、俺らはもう友達!」
 俺は勢いに任せて言ってしまった。
 しまった。嫌な思いをさせたかな。そう思い、彼の顔を覗き込む。
 彼は少し驚いたような表情をして、そして微笑んだ。
 その笑顔は、どこか虚しくて、儚かった。
 でもその瞬間、彼の意識はなくなった。