テラーノベル
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ライブ前の楽屋。
機材の音や、誰かのチューニングの音が混ざりながら、部屋の中はわりと賑やかだった。
元貴がさっきのリハの話をしていて、綾華も高野も普通に笑っている。
涼ちゃんも、その輪の中にいた。
「さっきのさ」
涼ちゃんが笑いながら言う。
「元貴、歌詞ちょっと飛びそうになってたじゃん」
元貴がすぐ反応する。
「いや飛んでないし!」
「いや顔ちょっと焦ってたよ」
綾香が笑い出す。
「見た見た」
高野も笑いながら頷く。
楽屋の空気は、普通に楽しかった。
みんなで笑い合っている。
でも。
その中で一人だけ、少し空気が違った。
若井。
若井は壁にもたれながら、ギターを軽く触っている。
笑ってはいる。
会話にも入る。
けれど。
涼ちゃんが何か言うたび、ほんの少しだけ表情が変わる。
「若井もさ」
涼ちゃんがふっと話を振る。
「さっきのギター良かったよ」
若井は一瞬だけ顔を上げる。
それから、少し間を置いて言った。
「……別に普通じゃない?」
少しだけ、言い方が冷たい。
涼ちゃんは一瞬きょとんとしたけど、すぐ笑った。
「そう?」
「うん」
短い返事。
またギターに目を落とす。
空気がほんの少しだけ変わった。
元貴はそれに気づく。
綾華も、高野も。
最初は気のせいかな、くらいだった。
でも。
それが一回じゃない。
涼ちゃんが話すたび、
若井の返事は少しだけきつい。
視線も、あまり合わない。
元貴は会話を繋ぎながら思う。
(……あれ)
綾華もふと若井を見る。
高野も少しだけ眉を動かす。
誰も口には出さないけど、
なんとなく分かってくる。
若井は――
涼ちゃんに、少し意見があるというか。
正直に言えば。
ちょっと気に食わない。
そんな空気が、態度に出ていた。
それでも。
涼ちゃんは気づいているのか、いないのか。
いつも通り、ふわっと笑っていた。
楽屋の中には笑い声がある。
でもその中で、
少しだけ。
見えない距離ができていた。
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RanJam
#病み