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良く晴れた昼下がり、フレミー家の中庭でティアナとレンブラントはお茶をしていた。正直まだ彼に会う心の準備は出来ていなかったが、突然訪ねて来た彼を追い返す訳にもいかず招き入れた。
「急にすまない。たまたま近くに来たんだ」
「い、いえ……」
かなり気不味い空気が流れる。ぎこちない中で話をしながらも、互いに視線を合わせる事はしない。
「良い天気だね……」
「はい……」
何を話せば良いのか分からず会話が続かない。
会いたくて仕方がなかったレンブラントが、目の前にいるのにもどかしい。本当は「会いたかった」「寂しかった」そう言って彼に抱き着き甘えたい。だが様々な思いが邪魔してそれが出来ない。
「ティアナ」
名前を呼ばれたティアナが恐る恐る彼を見ると、予想より近くに彼の顔があり目を見張る。
「レ、レンブラント様⁉︎」
「ねぇティアナ、抱き締めても良い?」
不安気にこちらの様子を窺うレンブラントに、ティアナは小さく頷いた。すると彼は胸を撫で下ろした様に息を吐くと、軽々とティアナを持ち上げ自らの膝の上に座らせた。そしてそのまま抱き締められる。その瞬間フワリと彼の匂いに包まれた。久々の彼の温もりに胸が熱くなる。
「ティアナ、ティアナ……」
今ティアナはレンブラントの腕の中にいるのに、何故か彼は苦し気に何度もティアナを呼び続けた。
「レンブラント様、私はここにいます」
「うん、そうだね……分かってる、分かってるんだ」
レンブラントは帰るまでの間ずっとティアナを離す事はなかった。帰り際、彼は馬車に乗り込もうとするが不意に振り返りティアナを抱き寄せると口付けをした。彼とこうやって口付けをするのは三回目だが、以前とは比べ物にならないくらい激しかった。息する事すら出来ず、まるで喰らわれている様だとボンヤリとする頭で思った。名残惜しい様子でティアナから離れた彼はそれから無言のままで、今度こそ馬車に乗り込み帰って行った。
ーーあれから一ヶ月後。
不穏な社会情勢が続く中、城で舞踏会が開かれる事になった。何でも王太子の婚約者として聖女フローラのお披露目をするとの事だ。未だ国王の容体が思わしくない中で些か不謹慎だと感じた。それに正直フローラとも顔を合わせたくない。だがレンブラントの婚約者であるティアナは出席せざるを得なかった。
舞踏会当時、気が重い中支度を済ませて城へと向かった。レンブラントからは所用があるので迎えには行けないと連絡を受けた。心細いが仕方ががない。
大広間に入ると予想以上に人が少ない。クラウディウスや聖女に対して不信感を抱いている一部の貴族等が反発をして欠席をしている様だ。だがそんな中、意外にも第二王子であるハインリヒや第三王子のミハエルは出席をしていた。ミハエルは兎も角、政敵と呼べるハインリヒがいるとは驚きだ。
「あら、ティアナ様。お久しぶりですわね」
レンブラントの姿はなく、暫く一人で過ごしていると聞き覚えのある声に呼び止められた。一瞬振り返るのを躊躇うが、無視をする訳にはいかず諦める。徐に振り返ったティアナは目を見張った。何故ならそこに居たのは予想通りの声の主であるヴェローニカと腕を組むレンブラントが立っていたからだ。
「あらやだ、もしかしてお一人ですの? お可哀想〜」
「ヴェローニカ、そんな風に言うものじゃないよ」
「レンブラント様は優し過ぎますわ」
仲睦まじく腕を組み寄り添う二人に、訳が分からずティアナは戸惑った。
「ふふ、でもそんな所も素敵です」
「ありがとう。君も今夜は一段と愛らしくて何時にも増して素敵だよ」
ヴェローニカの笑い声が嫌に耳につく。レンブラントはヴェローニカの腰に腕を回し更に身体を寄せながら愛おしそうにヴェローニカを見た。そんな二人を前にして思考が追いつかず混乱する。
ーー何故彼女が彼と一緒にいるの?
ーー何故まるで恋人同士の様に寄り添っているの?
ーー何故そんな愛おしいそうに彼女を見ているの?
心臓が煩いくらいに脈打ち、息苦しくて仕方がない。目眩がして視界が揺れる。今直ぐにこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。
「あぁ、そうだ。ティアナ、君に言わなくてはならない事があるんだ」
冷たいレンブラントからの視線が突き刺さり、ティアナは彼が口を開く前に次の言葉が分かってしまった。
「君とは婚約破棄をする。ご覧の通り、僕とヴェローニカは愛し合っているんだ」
ティアナは自室のベッドにドレスが皺になるのも構わずにそのまま横になった。今は何も考えられない。頭が真っ白になって、どうやって帰って来たのかすら覚えていない。覚えているのは、彼から婚約破棄を告げられたという事実だけ。
それからティアナとレンブラントの婚約破棄の噂は瞬く間に社交界に知れ渡った。更にその後直ぐにレンブラントとヴェローニカの婚約も公表され、暫く社交界はティアナ達の噂で持ちきりとなった。