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「危ないかもね」
彼女は言葉一つ発していない自分へ、そう言った。その言葉の意味するところは、誰に言われなくとも理解できた。全身に重く圧し掛かっていた何かが消え、ため込まれていた言葉が溢れた。
「玲奈先輩。その……俺本当は、映画監督になりたかったんです!」
なぜ、今までそうしていたのかはわからない。運命のお姫様、なんて人に出会えるまでは誰にも言わないと、幼い時に胸へ誓っていたのかもしれない。
実際、その夢を他人に語るのは初めてであった。美蘭や母親にすら、そのそぶりを見せたことは、ただの一度もない。だが、そこへ偽りの思いはなく、自分の中ではそれなりどころか確かに本気であった。
小説サークルでも、美蘭は評価のためにとにかく考えて書き、東雲は生理的に小説というものを愛して書き続けていた中。俺だけはそこでの大半の時間を二人の作品を読むことや、読書、映画視聴など、インプットの方向に力を入れていた。
大学生活最後の一年半で、ただ一作だけ書き上げ、それを今世紀最大の新人作と呼ばれるくらいの、大傑作にして問題作にしてやろうと思っていたのだ。
ゲームが流行るとそのシナリオ製作者に、アニメが流行ると原作との違いに、空を見るとその時の自分の感情に。幼い時から、そういったことに興味を覚える人間だった。
小三の時に祖父母の部屋で見つけ、初めて読んだ文芸誌に心打たれ、そこで将来はここに名を載せたいと明確に感じた。
友人関係だとかいう、社会そっちのけで毎日映画ばかり見たあの日々いたのは、確実に本当の自分であった。
「そうか、いい夢だね。で、何でそれをやめてしまったの?」
微笑みながら、彼女が言う。
「少し、話すと長くなりますがいいですか?」
「もちろん」
俺もついにコーヒーに手を付ける。缶を潰しながら、一口で飲み干した。その様子を見た彼女の笑顔は輝いていた。
あれは――大学二年の冬の事でした。