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あらすじ
ナミオはラジカセの前で、ゆっくりとつまみを回す。ざらついた音の奥から、誰かの声が混じる。遠い時代の記録。そこには、まだ昼に外を歩けた頃の世界が残っている。
あのとき、赤い雨が降ったらしい。
最初はただの異常気象だと、誰もが思っていた。けれど雨は止まず、地面は赤い砂に覆われていった。やがて風が吹くたび、その砂が舞い上がり、光に触れた人の肌は泥のように崩れ始めた。
人は昼を捨てた。
それでも終わりではなかった。赤い砂が原因かどうかもわからないまま、世界は急激に熱を帯びていく。水はぬるくなり、地面は焼け、動物の姿は消えた。声も、足跡も、見つけることが難しくなった。
ナミオはその話を何度も繰り返す。労働の合間、夜の食事の前、誰かが聞いていれば同じ順番で話す。だが聞いているはずの仲間たちは、次の日にはほとんど覚えていない。ただ、一ヶ月に一度だけ、ナミオが持ち帰る新しい断片――知らない歌や、見たことのない景色の音――それだけは楽しみにされている。
今の世界では、音は娯楽でしかない。意味を持たないもの。だがナミオにとっては違った。拾った電波の中には、ただの記録では終わらないものがある。繰り返されるリズム、揺らぐ強さ、言葉にならない規則。
外では、風が赤い砂を運んでいる。
誰もいない昼の世界で、光は相変わらず危険なままだ。だがナミオは思う。あの光も、この音と同じように、まだ何かを残しているのではないかと。
世紀という言葉が消えたあとも、人は赤い砂の中で生きている。忘れながら、繰り返しながら、わずかな音に耳を傾けながら。ナミオは今日もつまみを回す。途切れかけた過去の続きを、拾い上げるために。