【報告書抜粋|内閣特別災害調査局 第38案件(通称:色彩垂直異常)】
文書番号:SDR-38-A/極秘扱い
発行日時:⬛⬛⬛⬛年⬛⬛月⬛⬛日 22:14
記録官:古賀 紀行(特殊災害庁監察官)
:概要
本案件は東京都都市タワー及び半径1.2kmにおいて発生した大規模色彩異常現象および人体上昇(逆落下)に関する記録であり、既知の自然災害・人工災害・⬛⬛災害いずれにも該当しない認知災害カテゴリとして暫定定義された。現場調査班より提出された映像・音声データに関しては、解析中に複数名の職員が視神経反転症状および思考遡行性幻覚を発症したため、以後の閲覧には直視用プロトフィルタおよびセーフワード使用が義務付けられる。
:被害状況(要約)
確定死者数:57名(再出現後に死亡確認)
消失状態:1329名(消息不明・遺体非発見)
精神破綻者:2854名(自我位相逸脱・言語解離症候群)
構造物被害:ゼロ(物理的損壊一切なし。ただし一部の建物の全表面色相が反転)
特筆すべきは、タワー最上階に設置されていた民間観測装置が「発光現象を引き金とする可視構造的上昇加速度」を記録している点である。これにより、空間重力場が一時的に「反転した」という仮説が支持されつつある。
【インタビュートランスクリプト:目撃者 への聞き取り記録】
対象:N・M(31歳・男性・ビル清掃作業員)
場所:都内病院・精神保護病棟内/録音デバイス:AAX-R【3重保護波形処理済】
―あなたが見たことを順を追って話してください。
「空が……虹じゃなかった。もっと濁ってたんです。ねじれてる油絵みたいに、空が嘘みたいな色で笑ってた。俺、嘘だと思った。色が変わるのは夕焼けだけじゃねえのかよって。でも……ビルの上から人が、落ちてくるんですよ。落ちてるのに、落ちてない。……気がついたら、足が宙に浮いてた。下にいるのに、上に吸われる感じ……!」
―あなたはそのとき、何を感じましたか。
「ああ、ここにいちゃダメだって思った。でもそれ以上に……なんていうか、“色に見られてる”感じがしたんです。色が俺を見てて、笑ってる。紫のやつがとくに、やばい。ずっと頭の中に『これは記憶の出口ですか?』って声が響いてて……。気づいたら俺、泣いてて、周りのやつが逆さのまま空に落ちてったんですよ。腕振って、笑いながら。何人も。」
―生還できた理由に心当たりはありますか?
「俺、色弱なんです。緑と赤の区別が昔からつかなくて。だから見えなかったんですよ、多分。“あっち”が。見えなかったから、連れて行かれなかった。けど、今も夢で見えるんです。空が、裏返る夢……。」
―最後に、これを読んでいる人間に何か伝えたいことはありますか。
「空は、ただの空じゃないです。下にしか落ちないって思ってるのは、人間の都合なんです!上にも、ちゃんと落ちる場所があるんですよ……!みんな、知らないだけで……!」
(ここで対象N・Mは異常興奮状態に入り、発作を起こす。以後の発話は断続的な色名の羅列と意味不明の単語に変化。)
【備考】
本記録は職員訓練・災害対策用に限り閲覧許可。外部漏洩は認知汚染の拡大を招く恐れがあるため、閲覧後は必ず記録装置を通じてデータを初期化すること。
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