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#魔王
青空美空
8
ruruha
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於田縫紀
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◆
ロビーには、しばらく重たい沈黙が流れていた。
誰も口を開かない。
テルは苦笑いを浮かべながら頭をかき、小さく息を吐く。
「……というわけです。」
「東棟で起きたことは、これで全部です……。」
「……。」
イリアはしばらく言葉を失っていた。
「……な、なるほど……。」
ようやく絞り出した声には驚きが混じっている。
プリムローズも苦笑した。
「なんというか…… お疲れ様です……。」
そう言って、自分の鞄をごそごそと探る。
「あっ……。」
ポケットから小さなお菓子の包みを取り出し、二人へ差し出した。
「よ、よかったらどうぞ……?」
「……。」
テルは一瞬きょとんとしたあと、小さく笑った。
「ありがとうございます……。」
リーナも照れくさそうに受け取る。
「……あ、ありがと。」
ほんの少しだけ、場の空気が和らいだ。
イリアは真剣な表情になる。
「その……。」
「お二人とも、このままだとマズくないですか?」
「はい。」
テルは即答した。
「おっしゃる通りです……。」
「…分かってるわよ。」
リーナも腕を組み、深いため息をつく。
「でも……。」
「穏便に解決できるやつが東棟にはいなかったから。」
「はい……。」
テルも頷く。
「西棟の皆さんなら、何とかできないかなって……。」
少し俯く。
「……その。」
「これでも、本当に真剣に考えたんですよ。」
「分かってますよ。」
イリアは優しく微笑む。
「責めるつもりなんてありませんから。」
腕を組みながら考え込む。
「誰か何とかできる人……。」
プリムローズも必死に考える。
「……うぅ。」
「お、思いつきませんわ……。」
「ローラさんは……。」
イオは一人ずつ思い浮かべる。
「…無理ですね。」
「ミシェルさんは……論外。」
「ヴェルクさんも研究以外はあまり……。」
「……あれ。」
テルが遠い目をする。
「もしかして、本当に詰んでる……?」
「……。」
リーナは真顔で呟く。
「いよいよ東棟も取り壊しかしら……。」
「は、早まらないでくださいまし!?」
プリムローズが慌てて立ち上がる。
イリアも両手をぶんぶん振る。
「ちょ、ちょっと待ってください!今必死に案を練ってますから!」
数分後。
「……。」
テルは申し訳なさそうに頭を下げた。
「やっぱり無理ですよね……。」
「すみません。 無理なお願いをして……。」
「謝らないでくださいまし…!」
プリムローズは首を横に振る。
「村長には連絡したわ。」
リーナが静かに言う。
「すぐ教会を向かわせるって。」
「何とかできるかは分からないけれど……。」
「そうですね。」
イリアは頷く。
「とりあえず、いつもの会議をしながら待ちましょうか。」
◇
それから二十分ほど経った頃。
「すみませーん。」
ロビーへ一人のシスターが姿を現した。
「あっ、こんばんは…。わざわざすみません。」
イリアが立ち上がる。
「村長から話は聞きました。」
シスターは一礼した。
「ひとまず、会議室までご案内いただけますでしょうか?」
「こっちよ。」
リーナが先頭に立って歩き始める。
◇
会議室の前へ到着する。
シスターは扉の窓から中を覗き込み、小さく首を傾げた。
「……?」
もう一度中を見る。
「…その…。何も問題ないように見えますが…。」
「え?」
テルは思わず聞き返す。
「いや、よく見てくださいよ。」
「明らかに……。」
そこで言葉が止まる。
「……え?」
「……あれ!?」
テルは思わず窓へ駆け寄る。
「何よ、でっかい声出して……。」
リーナも覗き込む。
「……は、はぁ!?」
会議室には、穏やかな夕日が差し込んでいた。
あれほど天井近くまで満ちていた水は、一滴も残っていない。
漂っていたクラゲも、跡形もなく消えていた。
「み、水が……ありませんわね。」
プリムローズは呆然と呟く。
「……本当ですね。」
イリアもゆっくり頷く。
「クラゲも……いないみたいです。」
シスターは全員を見回した。
「皆さんは、ちゃんと見たんですよね……?」
「えぇ。」
リーナは力強く頷く。
「確実に見たわよ! どういうことなの……。」
「え……。」
テルは青ざめる。
「まさか、疲れすぎて幻覚……。」
「嘘よ!あり得ないわ!」
リーナが即座に否定する。
「七人よ!?」
「七人全員が同じ幻覚なんて、あるわけないもの!」
イリアは慎重に扉へ手を掛ける。
「……。」
「会議室、入っても大丈夫そうですかね?」
「……!」
プリムローズが何かに気付く。
「水があったのなら……。」
「多少、お部屋が濡れているはずですわ!」
「た、確かに……。」
テルも頷く。
「確認してみましょうか。」
扉を開け、中へ入る。
静まり返った会議室。
「……!」
リーナがソファを指差した。
「ほら見なさい!」
「ちゃんとソファが濡れてるわ!」
イリアはそっとソファに触れる。
「冷たい……。」
「なら、幻覚ではなさそうです……けど。」
「余計に怖いですわね……。」
プリムローズは身震いした。
シスターは部屋を一周見回すと、小さく祈りを捧げる。
「……とりあえず。」
「この部屋に結界を張っておきます。」
柔らかな光がゆっくりと会議室を包み込んだ。
「……ありがとうございます。」
テルは深く頭を下げる。
「それでは…。」
シスターも一礼する。
「私はこれで失礼しますね。」
イリアも笑顔で頭を下げた。
「はい、 わざわざありがとうございました…!」
シスターの姿が見えなくなったあと。 リーナは静かな会議室を見つめる。
「……よく分からないけれど。」
「クラゲが消えたから、水も消えたのかしら。」
イリアも頷く。
「その可能性は十分ありそうですね……。」
「……でも。」
リーナは小さく首を傾げた。
「急にクラゲが消えるかしら?」
「うーん……。」
プリムローズは考え込む。
「西棟の誰かが発見して、解決してくださったのでしょうか?」
「それならありがたいですけどね……。」
テルは苦笑した。
リーナは小さく息を吐く。
「……ひとまず。」
「事件は解決ね。」
その言葉に、全員が静かに頷く。
けれど。
誰一人として、その出来事の”理由”だけは分からないままだった。
コメント
1件
読み終えた直後の気持ち、すごくもやもやしてます……! 水とクラゲが消えた理由が完全に謎のまま終わったのが、逆に気になって仕方ないです。七人全員が見たものなら幻覚とは思えないし、ソファが濡れてたのも確か。西棟の誰かが気づいて解決した可能性はありますが、それならそれで「誰が?」が気になる。この伏線、絶対後で効いてきますよね。今回もテルたちの掛け合いが自然で、和む場面と緊張がいい塩梅でした。次回が待ち遠しいです!