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◆ 3話 携帯会社への圧力(微調整版)
春の午後。
MINAMOの発表から3年が経ち、
街には水色・緑・黄緑のフレームが、
もう珍しくない風景として溶け込んでいた。
薄灰ジャケットに緑Tシャツ姿の 三森りく(24) は、
大学近くの商店街を歩いていた。
水色寄りのMINAMO“ミナ坊”が、
陽を受けてほんのりと反射する。
通りの先にある大手携帯ショップでは、
鮮やかな水色の大きな垂れ幕が揺れていた。
《MINAMO 1円キャンペーン 再開》
りくは思わず足を止める。
「……また始まったんだ。」
ミナ坊が静かに文字を表示する。
『りく、UMI社が携帯3社に
“年間販売台数の最低ライン引き上げ”を通知しました。
その結果、1円販売が再導入されています。』
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そこへ、
黄緑トップスに灰スカート姿の 杉野いまり(20) が、
明るい足取りで駆け寄ってきた。
淡い緑のMINAMOが髪に溶け込み、
春の光にやわらかく馴染んでいる。
「りくくん!見た?
MINAMO、また1円だよ〜!」
「うん。
この流れ、今年はさらに加速するだろうな。」
店内を覗いたいまりの目が、少し丸くなる。
「なんか……展示の仕方、前と違わない?
スマホよりMINAMOの棚が多い気がする。」
店内の中心には、
淡色フレームのMINAMOがずらりと並び、
視線センサーの動作を試せる体験スペースが設けられている。
説明パネルには、
MINAMOを購入するとAirWayが付属すること、
スマートリングは希望者向けに月額制で案内されていることが、
当たり前のように書かれていた。
完全に、
“MINAMOが主役”の売り場だ。
それを不自然に感じる客は、もうほとんどいない。
今の社会では、それが普通だからだ。
*********************
カウンターでは、
灰スーツ姿の店員が水色のMINAMOを手に説明している。
「最近のアップデートで、
視力補正機能は自動で1.3〜1.5に調整されます。
こちらは16Kモデルで、視界補完も最新です。」
「通信プランは、こちらになります。」
りくは肩をすくめた。
「スマホよりMINAMOの説明のほうが長いな。」
ミナ坊が補足する。
『携帯3社は、
MINAMOの販売台数を達成できない場合、
UMI社との共同サービスに制限がかかります。
事実上、販売強化は必須となっています。』
いまりは、少し眉をひそめた。
「それって……ほぼ圧力じゃない?」
『協力依頼、という名目です。』
*********************
店を出ると、
通りを行き交う人々の多くが、
水色・緑・黄緑のMINAMOを自然にかけていた。
視力補正、通知、16Kの視界。
生活の中心に据えられたデバイス。
いまりが髪を軽く押さえながら言う。
「ねえ、りくくん。
街歩いてるとさ、MINAMO率ほんと高いよね。」
「最近は“持ってる”じゃなくて、
“つけてるのが当たり前”なんだろうな。」
ミナ坊が視界の端で静かに光る。
『現在、携帯ショップの展示スペースの
約70%がMINAMO関連製品に置き換わっています。
社会全体の普及率は58%です。』
いまりの目が、少し輝く。
「この勢いなら、
もうすぐ誰でも普通につけてる時代だね。」
りくはゆっくり頷いた。
「たぶん、今年で一気に来るな。」
水色・緑・黄緑のMINAMOが、
街の色として溶け込み、
社会は音もなく形を変えていく。