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少年死刑囚69

【第14話】少女死刑囚48 鴫 鶫 ③ならく

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2021年12月11日

#ホラー#グロテスク#殺人

爽やかな風が吹き抜ける武蔵野高等学校。

その通いなれた朝の教室で、

鶫(つぐみ)は眼球がこぼれんばかりに目を見開き、

落書きと彫刻刀で傷つけられた机を凝視していた。

(死ね、キモイ…m9(^Д^)プギャーwww?)

口にするのもおぞましい言葉の数々。

鶫はゾワリと肌が栗立つのを感じながら、

クラスメイト達に救いを求める眼差しを投げかけた。

しかし――。

「鴫(しぎ)ってすげーことやってんのな!

ってか、頼まれたら誰とでもするんじゃねーの?」

差し伸べられたのは更なる悪意だった。

(前と同じだ…中学の時と同じだ)

雅(みやび)と再会した翌日、

クラスメイトが急によそよそしくなった。

更に翌日、ろくに喋ったこともないクラスメイトが、

馴れ馴れしい様子で話しかけてくるようになった。

「ねぇねぇ!このサイトに載ってる話って、

鴫さんのこと?だったら、マジ悲惨じゃんね?」

同情的な慰めの声とは対照的に、

興味津々の眼差しを浮かべた女子生徒が携帯を差し出す。

その画面には『お父さんに初めてを捧げた、T・Sさん』

という書き込みが表示されていた。


「T・Sさんの追加情報はよっwww

初めての部分について特化したヤツなwww」

「情報通のボクが詳しく語ってさしあげよう(‘Д`)y-~~」

「ワクワクが止まらないwww」


「あ…これさぁ、うちの学校の裏サイトなんだけど、

ここに書かれてる子の特徴が、鴫さんにそっくりなんだよね!

それに、しぎ つぐみって…T・Sでしょ?」

「わ…私じゃない!…違う…別の人…!」

うわずった声で否定した途端、

クラスメイトの唇が嬉しげに歪んだ。

コイツだ――私が突き止めた!という喜びの波動が、

体全身から漂っているのが感じられた。

「そんなに驚かなくたって大丈夫だって!

私は信じてるから、ね?」

クラスメイトはそう言って、仲間に目線で合図を送った。

噂はこれから更に感染してゆく。

そう実感した鶫は、そっと後退りする。

(いったい誰が…こんなことを?

雅ちゃんじゃないよね?

雅ちゃんは…こんなことしないよね?)

犯人候補に親友を思い浮かべた自分を嫌悪する。

だが、タイミング的に疑わざるを得なかった。

(みんなが…私のことを見てる…。

みんな…私が、汚れてるって思ってる)

無言の嘲笑と軽蔑の眼差し。

鶫は足が震えるのを堪えながら、

自分の椅子に手を伸ばすが指先が宙を薙ぐ。

見ればそこに椅子はなく、

床に大量の画鋲が撒かれていた。

「…ひぁっ!」

教室を渦巻く毒心が注がれる中心、それが鶫の席だった。

そこに充満する禍々しい瘴気に圧倒されていると、

担任の教師が教室のドアを開いた。

「ほら、ホームルームを始めるぞ!

着席、着席!おい、鴫!早く座れ!」

「…っ!はひっ…で、でも。」

混乱した鶫は言葉を探して、

金魚のように口を開閉させた。

すると、教室のあちこちから不快な笑い声があがった。

「ぷぷっ!マジうける!」

「鴫さん、早く座ってくださーい!ぎゃはははっ!」

「うぅっ…。」

泣きたくなるがぐっとこらえ、

この事態をどう乗り切るか思考を巡らす。

そんな鶫を憐れむように担任の教師が息を吐いた。

「ったく、なにやってんだ…。椅子がないのか?

だったら、空き教室から持ってきなさい。」

「…先生。」

すがるように視線を送る。

が――咄嗟に言葉を飲み込む。

(きっと、先生も…裏サイトのことを知ってるんだ…。

中学の時の先生も…私の家のこと迷惑そうだったから…)

性的虐待の事件が学校中に広まった時、

鶫は担任の教師に呼び出された。

その当時のことが、なぜか鮮明に蘇った。


「なぁ、鴫…お父さん、警察の人なんだろ?

だったら、悪いことしないと思うんだ。

だから、鴫の気のせいなんじゃないかなぁ…。

それに…もう中学も卒業だろ?

先生、このまま…トラブルがないまま、

みんなに笑顔で卒業して欲しいんだよ。な?わかるよな?」

「は……はい。」

『みんなに笑顔で』――。

そこに自分が含まれていないように思えた。

既に自分は元気でもないし、笑顔でもなかったから。


「鴫、どうした?早くしなさい!」

机が汚れた原因にも、

教室に漂う穢れにも関わりたくない。

担任の教師は真相を追い払うように、

手をはためかせた。

※  ※  ※

――放課後。

暮れなずむ井の頭の森を、

鶫は茫然自失といった様子で歩いていた。

「もぉ…死んじゃったほうが楽なのかなぁ。」

森は刻々と移り行く自然に覆われ変化し続けているのに、

自分は過去の呪縛に囚われ、進むことも戻ることもできないでいる。

そのことが鶫を苦しめ続けていた。

「うん…そうしよう。そのほうが…きっといいんだ。」

吉祥寺駅方面を振り返り、中央線のラインカラー、

オレンジバーミリオンを思い描く。

と――その時。

「何が、そのほうがいいの?」

「…えっ?」

吹き抜ける風と共に、晴人(はると)の声が鶫の耳に届いた。

「諏訪…さん。」

「俺の勘違いだったら悪いけど、

もしかして…自殺しようと考えてなかった?」

「…っ!どうして…分かるんですか?」

「赤堀(あかほり)に聞いた…キミに何があったか。

それと、ムサ校に通う友達がこれを…。」

晴人は申し訳なさそうな顔をして携帯を差し出した。

その画面には、あのサイトが表示されていることが分かった。

(雅ちゃん…私のこと、話したんだ…)

「…待って、勘違いしないで。

赤堀、キミのこと心配してた。

もし俺がキミと親しくなった時に、

誰かから中学の時の話を聞いて、キミから離れたら、

傷つけてしまうって…。自分も離れてしまったひとりだからって…。」

「…雅ちゃん。」

僅かでも親友を疑った自分が恥ずかしくなるが、

胸の奥に火が灯ったような温もりが広がる。

と――同時に、ようやく気分が落ち着いた鶫は、

ふと芽生えた疑問を晴人に投げかけた。

「あ、あの…どうして、諏訪(すわ)さんがここに?」

「えっ? あっ…俺?いや、その…実はキミとまた…話したくなって、

学校帰りに…探してたっていうか、偶然を期待してた…つーか…。

って…俺、ストーカーっぽい?ヤバい?」

女性慣れしてそうな晴人が照れ、

言葉を探しながら話す様子を見ていると

自然と表情が綻んでしまう。

気づけば鶫は、久しぶりに声を出して笑っていた。

「ふふっ…諏訪さん、私みたいな…話し方です…。」

「はは、そうだね…。あ…そうだ、もし良かったら、

今から俺ん家こない?すぐ…そこだから!

ほら、フィギュア見たいって言ってたでしょ?」

「はい…!フィギュア見たいです…。」

井の頭池の水面に夕陽のオレンジが反射する。

宝石のような煌きの中を、ふたりは笑顔で歩き出した。

だが、その光の向こう―― 。

鬱蒼と茂る木々の合間で、

怨憎にまみれた雅の眼がギラギラと輝いていた。

「…先輩は絶対に渡さないんだから。」

少年死刑囚69

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