~⚡said~
「あー…あの会社、誰か爆破でもしてくれへんかな…。そしたら、こんな残業ばっかりの所より、もっと良い所に再就職も夢じゃないのに…。」
駅のホームで電車が来るまでの暇な時間、人は見渡す限り殆ど居なかった。
ベンチに腰掛けて誰に呼びかけるでもなく、独り言が漏れた。
「それなら、俺が爆破しようか?」
ふと隣からかけられた声に驚き、身じろいだ。
「だ、誰?」
隣に人が来たことに気が付かない程ボーっとしていた自分にも驚いたが、何より先程の独り言は、人に聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声量で発したものだ。
こいつ、耳良すぎだろう。何てくだらない思考に頭を使っていた。が、目の前の男は何を考えているのか分からないような薄っすらとした笑顔を張り付けたまま、同じ言葉を繰り返した。
「君の会社、爆破しようか?」
「え?!できるんですか?あ…いや、何でも。」
パワハラ上司やら、給料や残業、過重労働で疲弊していた俺は、本当にあの会社がなくなってくれればいいし、もし爆破できるなら是非してもらいたい所だったが、現実的に考えて、相当難しい事を言っていることは目に見えて分かっていた。
一瞬の淡い期待とは裏腹に、冷静に現実を見据える俺の脳みそは、やはり疲れ果てているようだった。だから、きっと聞き間違いだ。
「出来るよ。何なら今から見せようか?」
「………は?」
たっぷりと時間を使って聞き取った言葉を、反芻して理解しようと考えたが、いまいち理解できず、間抜けは声が漏れた。
「ほら、此処が君の会社でしょ?⚡さん。」
おもむろに鞄からパソコンを取り出し見せられた会社の内装は、確かに俺が働いている会社の内装に限りなく近かった。
「え…なんで俺の名前と会社を?ていうか、別の所ですよね?さすがに…。」
あまりにも似た内装に、慌てて違う場所だという事を確認したくて、男に問いかける。
「いや?ここは君の会社だよ。ほら。」
拡大された写真には、確かに会社名が映っていた。
「君をよく虐めてくるこのブタ(上司)も、一緒に始末しようか?」
優しく微笑んでいるように見えるその瞳の奥から、ほんの一瞬だが、殺気を感じ取った。
「い、いや、しなくていいです。会社もまだ続けたいし。」
慌てて断り立ち上がると、ちょうど電車がホームに入ってきた。
その電車に乗り込もうとしたとき、男が口を開いた。
「君がもう嫌だなって思ったとき、また来るよ。その時は…」
『 _____。』
「え?なんて?」
向かいの電車が通り過ぎる音で、最後の言葉は聞こえなかった。
乗り込んだ電車の扉から見たあの男は、先程のポーカーフェイスではなく、どこか優しい目をしていた。