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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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#軍師
眠狂四郎
153
アテイラの遠征は、大地を揺るがす地鳴りのように世界を変えた。
人々は故郷を捨て、民族は移動し、新たな土地を求めて流浪した。
だが、それ以上に変わったものがある。
人々の心だった。
自らの国を守りたい。
自らの民族を一つにまとめたい。
他国に支配されるのではなく、自らの手で未来を築きたい。
その思いは、各地で静かに芽吹き始めていた。
しかしライナーは、その変化をまだ理解していなかった。
ガラリアは、ジュリアスが征服した属州。
法も街道も整え、交易を栄えさせた。
人々もまた豊かな暮らしを手に入れた。
だから彼は信じていた。
ガラリアの民もまた、グラン王国の民なのだと。
だが、それは支配する側の論理だった。
豊かさは、誇りの代わりにはならない。
アテイラの侵攻は、ガラリアの民の胸に眠っていた
「自分たちはガラリア人だ」という意識を呼び覚ましていたのである。
そして、その民族意識が最初に牙をむいたのは、ガラリアの深い森だった。
雨に濡れた森は静まり返っていた。
「道がぬかるんでいるな」
ライナーは馬上から前方を見据えた。
「二日続けての雨ですから」
傍らを進むドルトスが答える。
馬の蹄は泥に沈み、荷馬車の車輪は深い轍を刻んでいた。
掃討戦には不向きとされた重歩兵二千。
彼らはガラリア総督府へ戻るため、森を貫く一本道を進んでいた。
両側には深い森が迫り、高い木々が空を覆っている。
見通しは悪く、兵士たちは無言のまま盾と槍を握り締めていた。
その時だった。
先頭を進んでいたアルミンが馬を返し、ライナーのもとへ駆け寄る。
「陛下」
「どうした」
「この先の足場を確認してまいります」
アルミンは森の奥へ視線を向けた。
「順調にいけば、あと半刻で森を抜けられます」
「任せる」
「はっ」
アルミンは軽く頭を下げると、数十騎の騎兵を率いて前方へ駆け去った。
その姿は木々の間へ消え、再び森には雨音だけが響く。
ライナーはその背中を見送りながら、小さく息をついた。
「ようやく森を抜けられるか」
ドルトスも頷く。
「ここまで来れば安心でしょう」
その言葉が終わるか終わらないかだった。
――ヒュンッ!
鋭い風切り音。
一本の矢が森の中から飛び出し、先頭を歩いていた兵士の喉へ突き刺さった。
「ぐあっ!」
兵士は声にならない悲鳴を上げ、その場へ崩れ落ちる。
「敵襲!」
見張りの叫びが森中に響いた。
直後――
ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
無数の矢が左右の森から降り注ぐ。
「伏せろ!」
「盾を構えろ!」
重歩兵たちは慌てて盾を頭上へ掲げる。
乾いた音とともに矢が盾へ突き刺さり、泥が跳ね上がる。
「敵はどこだ!」
しかし森は深く、姿は見えない。
見えるのは黒い木々だけ。
その闇の向こうから、再び矢が放たれた。
ライナーは剣を抜き、鋭く叫ぶ。
「隊列を崩すな!」
「盾を合わせろ!」
だが、その瞬間だった。
森の奥から、不気味な角笛の音が鳴り響いた。
「各隊、まとまって応戦せよ!」
ドルトスの怒号が森に響いた。
左右から降り注ぐ矢に対し、各隊は盾を寄せ合い、防御陣形を築いていく。
敵の姿は見えない。
だが、矢だけは絶え間なく飛んでくる。
(敵の数は読めん……)
ドルトスは周囲を見渡した。
森は深く、道は一本しかない。
これほど狭い地形では、大軍を一度に展開することはできない。
敵もまた、小部隊に分かれて襲っているはずだった。
ならば各隊ごとに応戦させれば持ちこたえられる――。
そう判断したのである。
「アルミンはどこだ!」
ライナーが叫んだ。
「先行した騎兵を呼び戻せ!」
しかし、ドルトスは鋭い声で制した。
「お待ちください!」
ライナーが振り向く。
「まさか……」
「その、まさかかもしれません。」
ドルトスの表情から血の気が引いていた。
「アルミンは、この道の安全を確認すると言って先行しました。」
「その直後に、この襲撃です。」
ライナーは言葉を失う。
「疑いたくはありません。ですが……あまりにも出来すぎています。」
その時、一人の兵士が叫んだ。
「左手をご覧ください!」
視線を向けると、街道の脇には長い木柵が延々と続いていた。
かつて街道を守るために築かれたものなのだろう。
しかし今、その柵は敵兵の格好の遮蔽物となっていた。
柵の隙間から矢が放たれ、姿を見せぬまま攻撃してくる。
「くっ……!」
盾に矢が突き刺さる音が鳴り響く。
こちらは前へ出れば森に足を取られ、柵が行く手を阻む。
敵は地形を知り尽くしていた。
いや――。
この場所へ誘い込まれたのだ。
ドルトスは剣を握り締め、小さく呟いた。
「これは待ち伏せではない……。」
「最初から、この場所で我らを仕留めるために用意された罠です。」
やがて、矢雨が止んだ。
森は再び静寂に包まれる。
雨粒が葉を打つ音だけが耳に届いた。
「……終わったのか」
兵士の一人が小さく呟く。
だが、誰一人として盾を下ろそうとはしなかった。
この静けさこそが、不気味だった。
敵は姿を見せない。
いつ再び襲ってくるかも分からない。
状況は、なお予断を許さなかった。
ドルトスは地図も見ず、即座に決断する。
「荷駄を捨てます。」
「前方へ進みましょう。」
「しかし……」
ライナーは険しい表情で前を見つめた。
「アルミンが待ち構えていたらどうする。」
一瞬の沈黙。
ドルトスは迷いなく答えた。
「その時は、奴を斬って捨てます。」
その声には、わずかな躊躇もなかった。
ライナーはドルトスの横顔を見つめる。
歴戦の将である彼が、ここまで言い切る。
それだけ事態は深刻なのだ。
ライナーもまた、ようやく悟った。
(アルミンが……裏切ったのか。)
胸の奥が重く沈む。
信頼してきた部下への疑いと、それを認めたくない思いが交錯する。
だが、現実は感情を待ってはくれなかった。
「前進!」
重歩兵たちは荷車を道端へ押し倒し、身軽になると再び歩みを進める。
その瞬間だった。
ヒュンッ!
森の奥から再び矢が飛ぶ。
「盾!」
乾いた音が連続して響く。
「ぐあっ!」
先頭の兵士が倒れた。
さらに右手の森からも矢が放たれ、一人、また一人と兵が泥の中へ崩れ落ちていく。
敵は正面から戦おうとはしない。
距離を保ち、姿を隠したまま、じわじわと命を削ってくる。
ライナーは歯を食いしばった。
戦う相手が見えない。
それこそが、この森で最も恐ろしい敵だった。
コメント
1件
第26話、読み終えたよ〜!🌸 森での待ち伏せ、めっちゃ緊迫感あってページめくる手が止まらなかった😭💦 アルミン先行させた直後の襲撃……タイミング良すぎて「まさか」って思っちゃったよね。ライナーの信頼と現実の板挟み、胸が痛い…。ドルトスの「斬って捨てる」の決断、将としての覚悟がかっこよすぎるよ!地形を利用した戦術もリアルで、敵が見えない恐怖がひしひし伝わってきた。次が気になりすぎる〜!✨