rdside
がら ッ ヾ
病室の扉を開けると既に彼は起きていてまだ少し薄暗い窓の外を眺めていた。
昨日よりも肩の力が抜けていることに気づいて「昨日より顔色いいね」と声をかけた。
ぺいんとくんもこちらを見れば一瞬だけ目を伏せ、それから静かに頷いた。
rd「昨日は涼しいね」
pn「うん」
窓を開けるとふわっと涼しい風が俺の耳元を通った。
昨日と同じようにベッドに椅子を近づけカルテを取り出す。
カチャッとボールペンのインクを出すも視線はぺいんとくんから離さない。
rd「今日はよく眠れた?」
pn「… あんまり 、」
rd「眠れないの?」
pn「…寝る前がしんどくて、」
rd「それで眠れないんだ」
pn「うん」
pn「寝ても浅いし、すぐ起きちゃう 」
rd「うーん … どうしよっか」
rd「寝る前がしんどいって具体的にどんな感じ?」
pn「1人でいるのが寂しくて …」
rd「うん」
pn「嫌なこと思い出しちゃうの」
rd「うん」
rd「じゃあ寝る前に俺とお話しよっか」
rd「寝るまで居るから」
pn「うん …」
pnside
先生の声色や姿勢はいい意味で医者らしさがなく“話し相手”という安心感が強かった。
昔からよく色んな病院に行っていたけど、こんな先生と会うのは初めてだからいつも不思議に思う。
何か出来ないことがあっても、上手く話せなくても、ありがとうが言えなくても。
それでも先生だけはそんな俺を責めたり急かしたりなんてことはしないし今出来ることを優しく褒めてくれる。
rdside
pn「先生ってほかの先生とちょっと違う」
rd「良い意味で?」
そう呟くぺいんとくんに笑って答えた。
するとぺいんとくんは「うん 優しいから」とどこかぎこちない笑顔を俺に見せた。
その言葉と表情にどこか胸がざわついたことを決して表情には出さず、隠すようにぺいんとくんに笑いかけた。
rd「そう思ってくれてるなら良かった
そんなことを話しているうちに時刻は昼前になり、病室に差し込む光も眩しくなってカーテンを閉めた。
「昼食を取りに行ってくるね」とだけ言って俺は病室から出ていった。
病院の中もいつの間にか人が多くて朝のような静けさは完全に消し去ろうとしていた。
pnside
昼食を終え、先生が食器達を返しに行った。
先生はまた何事も無かったように戻ってきて、「暑くない?」「水飲む?」と俺の心配をしてくれた。
最近は俺も前よりは先生と話せるようになって気持ちの面はどこか良くなっているような気がするし、先生も柔らかい表情を見せてくれるようになったと思う。
先生が前に持ってきてくれた筆談用のノートとペンは1度だけ使って終わってしまったけど。
けどあれがあったから今こうして話せているのかもしれない、なんて思うとやっぱりあれは大切なものだったんだろうと感じた。
病室にはしばらく沈黙が落ちるがそこにも嫌な感じはしなかった。
先生はペンを机に置いて俺を優しく見守っていた。
俺はなんだか落ち着かなくて少しだけ動く指先を絡めていた。
いつも雑音でうるさいと感じる時間なのに、先生がいるこの部屋は時間がゆっくり流れていて静かに感じた。
pn「先生」
rd「ん?」
pn「… その 、」
pn「…」
rd「無理に話さなくていいよ」
pn「… うん」
違う。そうじゃないんだ。
俺が言いたいのはそういう話じゃないんだ。
rd「…今日はこのくらいにしておこっか」
そんな空気を締めるように先生はそう言った。
先生が椅子から立ち上がり夕焼けの景色を見ようとカーテンを開けた。
言わなきゃ、これだけは絶対に今言わなきゃいけない。
声が出ない。勇気が出ない。
先生が扉に手をかけた時、ようやく声が出た。
pn「ッ あの 、」
rd「ん?」
pn「ぁ …. ありがとう 、」
先生は一瞬だけ驚いた顔をした。その後すぐに優しく微笑んで「また夜ね」と返した。
その言葉にどこか暖められた気がしてゆっくり頷いた。
rdside
「ありがとう」
ぺいんとくんのその小さな声が耳に残って離れない。
診察を終え病室から出るのと同時にカルテを取り出した。
カルテに書いた文字を指でなぞってみても決して頭に流れて来ることはなかった。
rd「患者としての距離は保たないと …」
そんなことを意識すればするほどぺいんとくんのあの微笑む表情が鮮明に思い出されて俺の胸を締め付ける。
初めはあんな子じゃなかった。
ぶっきらぼうでとにかく無愛想な子だった。
過去に悔やんで未来を恨んだような瞳で俺を酷く睨みつけていた。
そんなぺいんとくんを見ているうちにもっと支えになりたいという気持ちが大きくなりつつあると自覚した。俺は
胸のざわつきを抑えようと窓の外に広がる夕焼けを眺めた。
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深夜の0時頃、病室の扉がそっと開いた。
それでも恐怖心なんてものはなく、むしろ少し安心した。
rd「起きてる?」
小さくそう囁く声に俺は目を向ける。
pn「うん」
rd「あ、今日も月が綺麗だね」
今朝と同じように先生は窓を開けた。
静かに息を殺したように流れる風は病室に入ると消毒の匂いと混ざって独特な雰囲気を作った。
rd「ぺいんとくんは、月よりも星が好きって言ってたね」
pn「うん」
rd「何か理由があるの?」
星は月と違って沢山あるから1人じゃない気がする。
そんなことを言ったら先生はなんて言うのかな。
俺が何も答えず黙っていても先生は俺を責めたりしなかった。
pn「先生って月みたい」
先生は月に似てると思う。
周りの先生達とは雰囲気も話し方も全く違って、いつもどこか少し寂しそうで、切なくて儚い。
誰とも似てなくて良い意味で1人なのが月みたいだと思った。
rd「じゃあぺいんとくんが太陽だね」
pn「俺は太陽になんかなれないよ」
rd「俺が太陽にしてあげるから」
その言葉が頭の中で何度も繰り返される。
不安や孤独はまだ大きいし重たい。けれどほんの少しだけ胸の奥は暖かいような気がした。
死にたい気持ちは変わらないけど、 … でも、もう少しだけ頑張れそうな気がした。
先生の暖かい視線に包まれ、俺はゆっくりと目を閉じ深い眠りについた。
コメント
1件
心開いてきてるってことですよねこれ 控えめに言って最高です