テラーノベル
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レコーディングが始まった。
スタジオの中は静かで、
機材の音と、ヘッドホン越しの音だけが響いている。
涼ちゃんはキーボードの前に座っていた。
鍵盤に手を置く。
(……ちょっと頭ぼーっとするな)
そう思いながらも、音を確認する。
元貴が後ろから近づいてきた。
「涼ちゃん」
「ん?」
「そこのフレーズさ」
元貴は涼ちゃんの後ろに立つ。
そして後ろから腕を回し、鍵盤を指した。
「ここ、こう弾くといいかも」
そのまま涼ちゃんの手を軽く掴む。
「この指で…」
一緒に鍵盤を押さえる。
その瞬間。
元貴は少し眉をひそめた。
(……熱い?)
涼ちゃんの手が、妙に熱かった。
最初はスタジオが暑いのかと思った。
でも。
元貴は一瞬黙る。
それから何も言わず、すっと手を離して――
涼ちゃんの おでこに手を当てた。
涼ちゃんが少し驚く。
「え?」
元貴は静かに言った。
「……涼ちゃん」
「ん?」
「熱あるよ」
その言葉に。
元貴の後ろにいたメンバーが、いっせいに振り向いた。
「え?」
綾華が声を出す。
高野も驚いた顔で見る。
若井も顔を上げた。
スタジオの空気が一瞬止まる。
涼ちゃんは少し困ったように笑った。
「え、ほんと?」
自分の額に手を当てる。
「でも全然大丈夫だよ」
軽くそう言って、また鍵盤に手を戻す。
「ちょっとだるいだけ」
そう言って、何事もないように鍵盤を押そうとした。
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