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#ワンナイトラブ
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「…………っ!?」
強引に目をこじ開けると、既にそこは真っ暗闇に包まれていた。
あ、あれ……私……。
急いで記憶を巻き返そうとして、それより先に、明らかな違和感が襲うので思い出す事は強引に中断された。
今のは、夢?それにここは……。
確かに覚えのある部屋のレイアウト。
驚く程に寝心地のいいマット、滑らかなシーツ。
それに、薄い布団を被って丸くなると、鼻先いっぱいに広がる甘い香り。
前と違うのは、これだけ。
私がこの香りを、常葉くんのものだと知っていること。
うわぁ、全部が常葉くんの匂いだ……。
……久しぶりだなぁ……
……………え、常葉くんの…………?
その事実が飛び込めば、一気に身体を持ち上げて辺りを見渡した。
気付いて、違うのがもうひとつ。
隣に、彼の姿は無かった。
下着もつけてあったし、Tシャツも着ていた。それに、前と同じ場所に眼鏡もあった。
だけどどう思い返しても、自分で着た覚えは全く無いし、ここに眼鏡を置いた記憶はもっと無い。
……その前に、常葉くんは……
落ち着かないのは、彼の所在が分からないから。
ベッドから降りて、音を立てないように変に力を入れてそのドアを開けた。
リビングも真っ暗だったけれど、既に闇に慣れた私の瞳はその姿を見付けた。
『このソファー、ベッドには向いてないし』
自分で意地悪なこと言ってたのに。
……なんでここで寝てるの?
あの時と同じ様に、顔のそばで中座りしてあどけない寝顔をじっと見詰めた。
『……たくない』
ふと、記憶に引っかかる言葉が過ぎる。
…………そうだ、私。
『隣で、寝たくない』
これ以上触れられると、戻れなくなりそうだからって
子どもじみた、反論をした。
その瞬間、目の奥から涙がポロポロと零れ落ちた。
彼の寝息と共に、鼻をすする微かな音がリビングに響く。
起こすのも嫌だし、こんな所見られるのは、もっと嫌だ。
来た時と同じ様に音も立てずに、寝ていた部屋に戻ると、あの香りが出迎える。
泣きたくなる程に、甘い香り。
流れる涙を拭う事もせず、零れそうな嗚咽を閉じ込めるように口を手で抑えて、背中をドアに預けたままずるずるとしゃがみ込んだ。
……旺くんが、あんなに執着するところ、初めて見た。
以前の私だったら直ぐにそれを受け入れたはず。
なのに、なんで。
“なんで?”なんて
自分のこと、自分だから、よく分かる。
────もう、見れない。
常葉くん以外、見れない。
やだよ、やだ。
好きになっても、報われない。釣り合うわけない。
好きになりたくない、なっちゃだめ。
なっちゃ、だめなのに。
……追い出すのは、優しさなのかな。
諦めるように、言ってくれたのかな。
わかんないよ、わかんない。
「教えてよぉ……常葉くん、」
消えそうな声は、誰にも聞かれることも無く
その部屋の中に、閉じ込められた。