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第66話:安心動画の時間
夜、集合住宅の一室。
水色のパジャマに着替えたまひろは、ヤマトタブレットを膝の上に置いていた。隣には母親が座り、ベージュのカーディガンに緑のエプロン姿で画面を覗き込んでいる。
タブレットの画面に表示されたのは「協賛エンターテイナー」の動画一覧。
一番上には「サイコパスとは? 安心のレッスン」と書かれた新作が並び、再生ボタンが光っていた。
画面が切り替わると、トトという若い男性キョウテイが登場。
ラフな水色のシャツにうす緑色のパンツを履き、軽快な口調で視聴者に語りかける。
「こんばんは! 今日は“サイコパス”って何かを一緒に学んでいきましょう!」
画面のテロップに「統制外語を使う人=サイコパス」と表示される。
トトは明るい笑顔を浮かべながら、使ってはいけない言葉を一切口にせず、「安心のために避けるもの」とだけ説明していく。
母は頷きながらまひろに言った。
「こうして学べば、間違った言葉を使わずに済むの。市民は安心して暮らせるのよ」
別の動画では、ラベンダー色のブラウスを着た女性キョウテイ・たんぽぽが料理チャンネルを配信していた。
「今日のレシピは“協賛トマトと未来マグロの丼”です♡」
テロップには「協賛野菜使用=幸福度ポイント安心イチ」と表示。
コメント欄には次々と文字が流れていく。
「安心だね!」
「子どもに食べさせたい!」
「協賛ありがとう!」
まひろは無垢な瞳で画面を見つめ、ぽつりと呟いた。
「ぼくも大きくなったら、協賛エンターテイマーになれるかなぁ」
母は柔らかく笑い、彼の頭を撫でた。
「もちろんよ。カナルーン入力とアンズイを守れば、誰でも安心してキョウテイになれるの」
その裏で、ネット軍の管制室では複数のモニターが並び、再生数やコメントの動向がリアルタイムで監視されていた。
緑のフーディを羽織ったゼイドが画面を見つめながら呟く。
「娯楽に安心を混ぜ込めば、疑いの余地はなくなる。動画を見せるだけで、市民は自ら“正しい言葉”を選ぶようになる……」
画面の中では、笑顔のキョウテイたちが「安心」を繰り返し唱え、アンズイで動画を締めていた。