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そんな山口の恋心も知らず、晴美は目の前に座る生活保護申請者の30代のシングルマザーの相談にのっていた、晴美は書類を確認しながら穏やかに話を切り出した
「峯又さん、申請書類こちらで確認しました、お子さんの塾の費用についても、支援制度の対象になる可能性がありますよ、私もね、3人の子供を育ててるシングルマザーなんです、子どもの将来の事を考えると不安になりますよね、でも大丈夫、少しずつ出来る事からやっていきましょう」
晴美の声には経験から滲み出る確かな説得力があった、5年前のあの事件――突然の誘拐、子供達を守るために必死で戦った日々・・・あの恐怖を乗り越えたからこそ、晴美は他者の痛みに寄り添えている、福祉課の仕事は晴美にとってそれは使命だった
「林田主任・・・本当にありがとうございます」
保護相談者の峯又は晴美を見て目に涙を浮かべていた
面談が終わって相談室を出ると、福祉課のフロアは相変わらずの忙しさだ、電話が鳴り、スタッフが書類を抱えて走り回る
晴美はデスクに戻って次のタスクに取り掛かかろうとすると、彼女の母からメッセージが届いていた
『今日の夕飯 晴馬が、からあげ食べたいって言うから作ったから』
「嬉しい、いつもありがとう母さん、感謝しています」
晴美はそう返信した、不思議な事に、専業主婦の時は甘えるなといつも厳しく口うるさかった両親は、晴美が一生懸命働き出したら、心強い味方になってくれた
自分でもあの頃は康夫に、両親に甘え、子供が子供を育てていた様なものだと思った、今は康夫と結婚していた頃より10キロは痩せ、あの時大変な思いをして給料を稼いでいてくれた康夫にとても感謝していた
しかしいつか両親も老いる・・・子供を育て、仕事を持ちながら、おまけに両親の介護までたった一人で出来るだろうかと時々不安になる
ブンブンッ!「だめよ!弱気になっちゃ!なんとかなれーー!」
パンパンッと頬を叩き、午後もバリバリと晴美は仕事をこなしていく
その様子を遠くから見ていた信二はため息をついて呟いた
ボソ・・・「一生懸命仕事をしている・・・林田主任って素敵だな・・・(はぁと)」
彼の視線には尊敬と恋心が混じっていた、子供達を愛し、仕事を愛し、過去を乗り越えて今を輝いている晴美を、信二は眩しそうにいつまでも熱く見つめていた
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