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外事技術捜査官の日野は、博多港を一望出来るインパレスCホテル23階から、第5係捜査官、昭島結衣と共に窓辺に寄り添い、港に停泊中の貨物船の動向を注意深く見守っていた。数年前からの捜査で、組織内で『マト』と呼ばれるキム ドゥヨンが博多港に現れる日がY-DAYとされ、それから数日内に日本の首都への攻撃が開始される。合衆国からの衛星画像は、リアルタイムでミサイル発射基地の映像を送り続けてはいるが、その兆候ー燃料注入や軍用車の車列の痕跡は見受けられず、枯れた大地には巨大な発射台だけが聳えていた。
日本海上空でデータ収集にあたる哨戒機 J2白浜。
時を同じくして、潜水艦龍門からの報告は終わりの始まりの如くある文言を記していた。
敵 ミサイル潜水艦『大陸星一号』の動きは未だに無く、それはY-DAYの到来を予感させるには充分過ぎる情報だった。
『ヤマ 0 動き無し』
日野は湾内に停泊している中国船籍の貨物船を双眼鏡で眺めながら言った。
穏やかな秋の波と澄み渡る空の下、錆び付いたその大型船は死んだ鯨の様にも見えた。
『昭島さん。捉えましたよ』
昭島の長い髪が日野の頬に触れた。
日野はこんな腐り切った時代でも、女は良い香りがするものなのかと思った。もうすぐ国がなくなるかも知れないと言うのに。