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茶髪の子と別れ、国に帰ると騒ぎは騒ぎなのだがいつもと違う禍々しい空気を感じた。いくつもの国がひとつの会議場で覇気を持った議論を交わしている。
あの日が来てしまったのかと覚悟した。
「神聖ローマ様。紅茶を入れ直してきましょうか?」
大きな屋敷で働く若いメイドに問われる。それに首を横に振って断る。
「すまないが、そのかわりにあそこに置いてある本を取ってくれないか?」
「こちらでしょうか?」
「ああそうだ。ありがとう。もういいぞ」
毎日毎日怒鳴り声にも近い声が廊下に響き、そこにいなくてはならない存在の俺は体を起こせないほど弱っていた。
帝国が消滅に向かっていっているのだ。参加出来ないかわりにせめて本でも読んで知識を蓄えておこうと思って部屋には数々の書籍が散らばっているのだが、
「ゲホッ!ゴホッゴホッ」
生憎咳が止まらない。そしてゆっくり読めない理由はもうひとつある。今ドスドスと近づいているこの足音のせいだ。
「よー!神聖ローマ!!俺様が来てやったぜ!」
「プロイセン」
口笛を吹きながらキョロキョロしてこちらに来る。
「お前なぁ、少しは休もうって気がないのか?本ばっかじゃねぇか」
「いいだろうそれくらい。それよりも、会議のこと教えてくれないか?」
「あー?入れ替わりすぎて覚えてねぇーよ」
「もう、まったく,,,,,,俺のことを話し合っているのは知っているから。内容を教えてくれないか? もう会議場に行くに関しても人が多くて通れなくてな」
「あ?あー、そうだなー」
顎に手を当て思い出す。
「各地の奴らがこぞって自分目線なことばっかいってやがる。俺も確かに国っちゃ国だけどよ、騎士扱いだから席はあっても意見は好まれてねぇみてぇだ。」
「,,,,,順調なんだな?」
「,,,,,,,,,,さぁな。そんで?あとは?」
「いや、何も無いよ」
口を歪ませ手がピクピクと動いている。そんなに怒らせるようなことを言っただろうかと悩んでいると、
「イタリアちゃんのことだっての!!!」
沈黙が流れる。
「は、はぁ!?な、なんでイタリアのこと!」
「舐めんな俺様のこと!あんな可愛い子のことぐらい分かってら!」
「で、でもだからって,,,,,ん?今可愛いって」
「あーはいはい。イタリアちゃんのこと言うぜ?久しぶりに行ったらよフランシスの野郎が暴れまくっててイタリアもこの前よりかは荒れてた。」
「荒れてたって,,,,,!」
「ここほどじゃねぇ。安心しろ」
「そ、そうか」
胸をなでおろしたところでまた咳が出る。
「,,,,,すまないな」
「別にいいぜ。また明日もくるからな」
「あ、明日もか,,,,,?」
「はっ俺にはお前を見届ける権利があるんだよ!」
「よー!神聖ローマ!今日は本持ってきたぜ!」
「足音がうるさいプロイセン!」
「見ろよ神聖ローマ!こんな大きいウサギが外にいたぜ!」
「プロイセン!屋敷に動物を連れ込むな!」
「ケセセ!雪が積もってきたぞ神聖ローマ!」
「屋敷が汚れるだろプロイセン!」
毎日毎日騒がしい者が来る中、今日は久しく来ていない。偶然にも今日は体調がすこぶる良いので会議場へ行こうと歩き出す。壁をつたいながらなので本当にゆっくりなのだが、廊下がいつもよりも長い気がする。
そして、景観も変わってきているような,,,,,
会議場が近づくにつれて声の荒れ具合は悪化する。ギィと扉を開けると案の定言い争っていた。俺を殺すための会議にするのか、生かすための会議なのか、ここまでくると主旨が俺には分からない。
「ここが壊滅する前にフランス明け渡すべきではないのか!?民が限界を迎えてしまう!」「だが奪われてしまったら元も子もないではないか!」「最初から渡しは申したであろう!?もう一度戦うべきだと!」
神聖ローマのいたる国が言い争う。聞くだけで頭痛が悪化しそうだ。プロイセンは肘をついてただ傍観している。顔色を見るに今日部屋に来なかったのはこの会議が終わらなかったからか抜け出せなかったからであるのだな。
フランツの元へ近寄る。フランツも毎日毎日これを聞いているからゲッソリとしている。
「フランツ。しっかりしろ。俺のことはもうどうでもいいから。」
しかし、フランツからはなんの返事もない。手を添えても肩を叩いても何も返事がない。
「ど、どういう,,,,,ことだ,,,,,?」
「神聖ローマ!!!」
プロイセンに腕をガッと掴まれる。
「お前,,,,,っなんで!」
血相変えたいつもは見ないその顔を静かな顔で見つめる。周りのものがザワザワし始める。
「っとりあえず出るぞ!」
出る直前、そのザワザワを聞き取れた。
《神聖ローマ?あの騎士、神聖ローマといったか?》《えぇ言ったわよ。でも私,,,,,》《だがと俺もそうだ。》《皇帝。神聖ローマは,,,,,》
《,,,,,いいや。》
腕を引かれて強引に部屋まで連れていかれる。そのせいで足がもつれてもつれて正常ではない。
「プロイセン!話してくれ,,,,,ゲホ」
だが力を緩めることなく歩き続けベッドの上に寝かされる。
「,,,,,俺が話をつけてやるからお前は寝てろよ」
「,,,,,,,,,,待てプロイセン」
「誰がお前の言うことなんて、」
「お前は騎士なんだろう?俺の騎士よ、言うことを聞いてくれ」
ピクっと動きが止まりゆっくりと振り返る。
「そうだ。こちらへ来い」
「,,,,,なんだよ」
「いつも、プロイセンプロイセン大声で怒鳴ってしまったと反省した。お前に名をさずけようと。」
「んで急に?そんなの言い始めたの最近じゃねぇだろ」
「気が変わった。お前の名は《ギルベルト・バイルシュミット》だ」
「,,,,,なんで?」
「かっこいいだろう?お前が気に入りそうだと思って。」
「そっちの理由じゃねぇ。まだ答えを言ってもらってない。なんで俺に突然名前をつけようと思ったんだ?」
再び沈黙が流れる。
「ゲホ 俺がいなくなったあと、お前に友達ができるように,,,,,かな」
「,,,,,は?」
「ケホケホ お前は性格が荒いからな。俺ほどの人格は現れないだろうからせめて印象をつけさせておこうと」
「いや、なんでお前が消える前提で,,,,,」
一際大きい咳をして血を吐く。
「お、おい!」
「分かってるんだ。だがさっきので決定的になっただけ。これ以上何を聞いてきても、もう何も答えないからな」
「,,,,,そうかよ」
肌寒い冬が訪れた。暖炉の火がもう消えそうになっている。だが、追加の薪をいれようにももう体が言うことを聞かなくなってきた。
「よ!神聖ローマ!」
気分が沈んでいるとギルベルトがまた今日も来訪してきた。もう昨日のことは気にしていないだろう。俺の机の上にあるティーカップをのぞいていた。
「,,,,,これ冷めてねぇか?もったいねーな!」
「,,,,,そっちまでいく元気はないのでな」
「呼んできてやるよ!おーい!」
廊下
「おーい!そこのメイド!」
「は、はい!どうかいたしましたかプロイセン様。」
「これ。お前らの当主のやつ冷めてんぞ」
「え?え,,,,,,,,,,っと、あ」
「,,,,,は?」
「申し訳ございません!すぐにご用意いたします!」
「なんなんだあいつ,,,,,」
「,,,,,,,,,,うちの屋敷の子達は忘れやすいんだ。許してあげてくれ。」
「でもあいつここ一番の働き者だってお前自慢してきたじゃねぇか。」
「疲れてるんだよ。ずっと会議続きで気が抜けない屋敷内だからな」
「まぁ、そうか。薪くべるぞ。」
「あぁ頼む。」
次の日ギルベルトは訪れることがなかった。しかし、特段大きな声が聞こえてきたのでもうそろそろなのであろう。
「よっ!」
「ギルベルトケホケホ」
「,,,,,血だらけじゃねぇか」
「,,,,,さっきだよ」
血だらけのタオルを畳んでいるとギルベルトはベッドの上にドスンと座る。
「嘘ついてんだろ」
「,,,,,ケホケホ なんのことだ?」
「追加も、入れ直しもされない紅茶。回収にこないし新しいものを補充されないタオル。そして一向に灯りづけることのない暖炉。」
「あぁ,,,,,ケホ そういえばそうだな,,,,,,,,,,存在が消えようとしているんだよ」
俺の《国》が薄れば薄れていくほど俺は認識されていかない。メイドにとってはこの部屋は物置になっていくのだろう。
「神聖ローマ。お前はどうしたい?」
「,,,,,もう、どうするもこうするもないだろう。手を打つことはできない。」
「ちげぇよその後だ。」
「,,,,,え?ゲホ」
背中を擦りながらギルベルトは答える。
「,,,,,明日、フランシスが来る。」
いつものドスドスドスという音とは違う上品な足音が聞こえる。開け方も静かだ。
「,,,,,久しぶりだなフランシス。」
「,,,,,,,,,,,,,,,やぁ」
「すまないな。ケホケホ もう起き上がれないんだ」
「結構。俺が近づくからいいよ」
スっと座る。だが俺に顔を向けることはなく、ただ下だけを見ている。
「,,,,,フランツ2世が決めたよ。」
「そうか」
「明日,,,,,あぁいや。もう夜には,,,,,」
「知ってるから遠回しに言わなくて結構だ。」
「,,,,,そう」
ただ静かな時が流れる。コチコチと鳴っていた時計は動きを止めた。寿命を迎えたのだろう。
風が室内に吹き渡り、フランシスの髪がゆれる。フランシスの香水が鼻の中を通っていくと 《あの子》を思い出した。あの茶髪の,,,,,
「,,,,,もう一度、国に生まれたらどうしようか」
「,,,,,え?」
「そうだな、次は海に行ってみたい。ケホケホ それに美味しいものも食べたいな。最近は紅茶ばかりで胃にたまらないんだよ。ゲホッゴホ」
フランシスが顔を手で抑える。そして静かに退出していった。
「,,,,,ギルベルト,,,,,でいいんだよね」
「あぁそうだよ」
「あと、頼むよ。俺はもう行くから」
「,,,,,覚えてろよ。必ずヴェルサイユで果たす。」
「,,,,,あっそ」
入れ替わりでギルベルトが入室する。恐らく廊下で聞いていたのだろう。
「,,,,,盗み聞きだな」
「悪いかよ」
「悪いな。俺は許すが」
「ケセセ。懐がいいもんだな」
「ゲホッゴホッ!!ゲボッ,,,,,」
「ほら」
新しいタオルが口元に抑えられる。もう起きることも返事もままならない。
「,,,,,もう一度、国になりたいか?」
「あ,,,,,あ、そう,,,,,だな」
ベッドの横で突然ギルベルトが立膝をつく。騎士が忠誠を誓うときの姿勢だ。
「彼が、教会・寡婦・孤児・あるいは異教徒の暴虐に逆らい神に奉仕するすべての者の保護者かつ守護者となるように。まさに騎士になろうとする者に、真理を守るべし、公教会・孤児と寡婦、祈りかつ働く人々すべてを守るべし。」
騎士の、忠誠の言葉だ。
「,,,,,あとで叩き起してやる。今は寝てろ」
「あ、あ。そう,,,,,そう、だな,,,,,今、すごく眠たくて,,,,,ゲホ,,,,,あの子に,,,,,会いたくて,,,,,」
フランスは革命後、ナポレオン皇帝により飛躍的な活躍を見せた。しかし、力は衰えていくもので今現在、新しくできた《ドイツ帝国》の新しい王がヴェルサイユ宮殿で戴冠式を行う。その脇でギルベルトとフランシスは話す。
「趣味悪いんだけど。有言実行するし、しかも王の戴冠式とか見せつけ?」
「お前とは違ってこっちはちゃんと王家を守るからよ。ほら見ろ。うちの国の王が次はドイツの王になるんだぜ?ケセセセセ」
「はっ!喜ばしいもので。んで?新しいドイツの化身は?あのむさ苦しい連中の中から?」
「あぁ連れてきてやるよちょっと待っとけ」
その化身は王のすぐ横にいた。ギルベルトは少し話しその新しい化身の服装を整えてあげている。屈んでいるため身長は小さいのだろう。下を見ながら待っていると新しい靴が視界の中に入ってきた。顔をあげると驚くべき顔がそこにあった。少し凛々しい健康的な神聖ローマの姿だ。
「ドイツ帝国の化身、ルートヴィヒだ。よろしく頼む。」
「え、?は,,,,,ギルベルト?これは,,,,,」
「あいつとは別人。別にこれはお前の後悔を残し続けるためにしたものじゃねぇ。あいつの願いだ。」
「,,,,,あはは、そっかぁそっかぁ。」
ドイツ帝国に対してフランシスは膝をつく。それを見てギルベルトもゆっくりとつづいて膝をつく。ルートヴィヒという新しい化身は驚いた顔をする。
「俺はフランスの化身、フランシスだ。長く、友好な関係を築いていこう。」
手を差し出す。ルートヴィヒは迷いながらもギルベルトの顔を見てその手をとる。
「あぁ。幸せな国にしていこう。」
「よろしくね。あっそうだ。イタリアのフェリシアーノも来てたはず。」
「えぇ!イタちゃんが!?ほら!いくぞヴェスト!!」
「え?あ、あぁ。」