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定正は百合との子供をそれはそれは強く望んだ、夫はユーモアに溢れ、どんな時も優しくて、高価な贈り物も欠かさず、そして人生の伴侶として百合を世界中あちこち連れて回った
「お前と私の子供ならとても美しい子が生まれるだろうね、私は自分が築き上げた帝国を継いでくれる跡取りが欲しいんだ、自分の血を引き継いだ子が」
「私も早く子供が欲しいわ、あなた」
定正は毎晩百合をベッドで腕に抱き、自分がお金に苦労してきた分、子供には贅沢三昧で育て、自分の全てを子供の未来に託す夢を嬉しそうに語った、百合も彼の期待に応え、子供を与えてあげたかった
しかしそこから7年間の夫婦生活で、二人の間には子供は出来なかった
定正の両親と兄達はいずれも老いぼれていて、高知の養老介護施設に入居していた、定正自体もそこに行くのはあまり好きではない様で、何度目かの訪問で百合も一緒に連れていった
百合はショックを受けていた・・・彼の両親は生きてはいるが死んでいるも同然だった
両親と彼と年の離れた兄達はすっかり認知症が進んでいて、定正が誰かすらもわからなかった
百合の父親と同年代ぐらいの定正の親といえば百合にとってはとても理解できない世代で、彼らは両親供、車椅子で涎かけをつけており、神経痛で常に震えていた、施設の介護士がいないと何一つ出来ない人形の様だった
あまりにも痛ましくて直視できないぐらいだ、人としての幸福を忘れ去った姿だった、彼らを見て若い百合は、どうしてそこまでして生きているられるのだろう、この人達の今の幸せは何だろうと思うぐらいだった
これが15歳もの年齢差の夫とのジェネレーションギャップかと思った、近い将来、今は若くて勢力旺盛な定正でも年齢には勝てない、彼の父親にどうしても20年後の定正を重ねて見てしまう、その頃の百合はまだ40代で女盛りだ、自分の待ち受けている未来を想像し、百合はなんだか帰りの車で黙り込んでしまった
それでも餌を与えられて飼い慣らされた小鳥はもう野生には帰れない、百合はこの何不自由ない贅沢な生活に慣れ切っていたし、そんな生活をさせてくれる定正に恩義を感じていた