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「さっきから、聞いていれば、何だよ。お前の婚約者だったんだろ。エトワールは」
「アルベド・レイ……」
アルベドは、喧嘩を売るような乱暴な口調で、リースに詰め寄った。リースは、まさかそこから反撃を喰らうと思っていなかったのか、驚いたように口を開けていた。だが、彼の言葉に対し、怒ったような、諦めたような声で反論する。
「それが、出来たら苦労していない。俺がエトワールを守れるなら、守りたい。だが、そうすれば……」
「お前には立場がある。分かってんだよ、そんなことは。だが、好きな奴のために動けねえってどうかと思うぜ」
「アルベド、いいって。だから、リースはこの帝国をよくするために、破棄できなくて」
アルベドの言い分も分かる。もっともだ。でも、守って欲しいとかは思っていない。私だってリースと一緒にいたい気持ちもあるけれど、一緒にいて彼をまた危険な目に遭わせてしまったら。
蘇る、デートの時のこと。私が気づいてれば、彼は苦しまずにすんだのだ。そう、あれにさえ気づいていれば、今私はこうなっていなかったと。
(私の不注意のせい。だから、もう誰も巻き込めない)
自分から巻き込まれにきている、アルベドは別としても。私は、これ以上大切な人を巻き込みたくはないのだ。それを、リースも薄々勘付いてきてくれている。でも、それを口に出さないのは、プライドと、私を守る為だろう。
アルベドだって、私が何度も巻き込みたくないといっても一緒についてきたような男だから。
「エトワールはそれでいいのかよ!」
「それしかないじゃない。他に方法があるの!?そもそも、もう一人の私を倒せもしない、何処にいるかも分からないのに……次どんな方法で私達に危害を加えてくるかも分からない。そんな状態で、一緒に逃げよう何てこと出来ないのよ!アンタだって分かってるでしょ!?」
「けど――」
アルベドは、それでも反論しようとした。
彼が私のことを思ってくれていることも知っている。アルベドと、リースでは私を思う気持ちが少し違うのだ。リースは長いこと一緒にいたから私のことを分かって、あえて言わないところがある。私はそれを理解してあげられるけど、周りはそれを知らないから、何て酷い男なんだ、と思うだろう。アルベドは、私の今の苦しみを存分に知っている。自分が同じ立場で苦しめられてきたから、だから私の気持ちが分かる。
二人とも思ってくれているが故にぶつかっているのだ。
もともと相性の悪い二人だったから、ここでぶつかってしまうのも無理はなかった。
リースとアルベドは互いに睨み合ったまま、一歩も引かない状態だった。私が何を言っても来てくれないだろう。
アルベドは、リースと一緒にいてもいいんじゃないかって思ってくれている。でも、私は、好きだからはなれないといけないと思っている。ここでも、ずれが生じているのだ。
「アルベド、大丈夫。アンタがいるから。だから、寂しくない」
「エトワール」
「……っ」
「アンタのことが嫌いになったわけじゃないから。そこは勘違いしないで欲しい。私は、守られる女じゃない……そんな弱い女じゃないって思ってるし、アンタの横に立つには、そんなか弱い女じゃいられないの。リース、私は、アンタのことが好き。今でもね」
「えと、わー……る」
私の言葉を聞いて、彼は、顔を一掃する。泣きそうになったから堪えているのだろうか。彼は暫く顔を見せなかった。でも、少し立ってから、ふうと息を吐いて、私にそのルビーの瞳を見せつけてきた。皇族の証。覚悟の決まった目。
「俺も、愛している。エトワール」
「知ってる。ありがとう」
これだけでいい。
まあ、実際三日後には私の妹と籍を入れちゃうから、それでいいのかとか、この言葉だけを切り取ったとき、ヤバい男になってしまうわけだが、きっとトワイライトも理解してくれているはず。
妹に会いたい気持ちも抑えられなくなってきたけれど、彼女に会って、泣き顔が見たいわけでも無い。遠くから見守っているよ、と、そう彼女の幸せを願うことが、姉としていまできることなのだろう。
「俺の前でいちゃつかないでくれよ。お二人さんよぉ……」
「あっ、ごめん。アルベド」
「……」
アルベドがわざとらしく声を上げて、ふたりだけの世界に入っていたことに気づいた。私は素直に謝ったのだが、リースはというと邪魔するなというような見幕でアルベドを睨んでいた。アルベドは知ったことかと、舌を出していたが、すぐに引っ込めて息を吐いた。
「――っで?本当に、皇太子殿下はそれでいいのかよ」
「ああ、俺もエトワールも納得している」
「俺も、の後が余分だ。まあ、エトワールはそう言う奴だしな」
「お前がエトワールのことを知ったようにいうな」
「殿下こそしらねえんじゃねえか?エトワールはなあ……」
「ちょ、アルベド何言う気!?」
咄嗟に、アルベドの口を塞いでしまったが、何を言う気だったのだろうか。気になるけど、口に出されたくはないなあ、と私は、窒息させるつもりで、アルベドの口を塞いだ。ちょうど前屈みになっていたので、口を塞ぎやすかった。
リースもイラついたように眉をピくつかせていたし、本当に、この二人は相性が悪いとつくづく思う。
まあ、リースはどちらかというと真面目だし、自由に生きているアルベドが気に入らない……? 違うな、少し羨ましいのかも知れない。それに比べ、アルベドからは努力は見えるが、才能もあって今の位置にいるリースが気に入らないのかも。恋敵という奴か……
(いや、そんな取り争われるような三角関係嫌なんですけど!?)
別にヒロインにはなりたくない。そんなベタなヒロインには。
乙女ゲームだし、あり寄りのありではあるんだけど、そうじゃない。私には荷が重い立場過ぎる。
自分の久しぶりのオタク思考に、なんかしっくりくるなあ、何て思いながら私は二人をみた。改めてみると、いや黙っていると顔だけはいいんだよな。中身もいいのは知っているんだけど、たまに二人ともぶっ飛んだことするし、いうし……でも、そう言うところが、好きだって思う。勿論、恋愛的に好きなのはリースなんだけど。アルベドは、そう言う好きじゃないけれど、ほんとこう、何というか大切な存在なんだ。
「エトワール、当初の目的忘れてねえか?」
「当初の……はっ!?フィーバス卿のところに行くって話」
「そーだよ。そのために、命からがらここまで来たって言うのに。皇太子殿下に邪魔されちまってよ」
「俺のせいにするのか?」
「いーや。でも、お前は、いかねえといけねえんだろ?だったら、俺達はここから逃走する。アンタら帝国民に捕まってもいやだしな」
「そうか……エトワールを頼む」
「いわれなくても」
アルベドはフッと笑って、挑発的な笑みをリースに向けた。
となると、フィーバス卿の所には行けないということか。リースの話を聞く限り、きっとフィーバス卿を帝国側に完全に引き入れることは出来ないだろう。かといって、私達がいったところで……ともなる。第一に、リースの後にいったら、気が立っているフィーバス卿に受け入れて貰えないかも知れないし。
そもそもに、帝国騎士団とかに見つかったらまずいわけで。
(無駄足過ぎる!)
ラヴァインがここまで転移させてくれたわけだけど、何も収穫が得られなかった。久しぶりに、リースの顔を見られたことくらいが、唯一の収穫と言えるか。
(でも、三日後か……)
三日間逃げ切ったら、私達は、一応一安心できるのか。まあ、その後も、何かしら手を打ってくるだろうし、気は抜けないけれど。
「……」
「暗い顔になってるぞ、エトワール」
「アルベド……ううん、大丈夫だし。三日逃げ切ればいいってことよね」
「魔力も残ってるしなあ、大丈夫だろう」
と、アルベドは心強いことを言ってくれる。でも、思えば、病み上がりなんだよなあ、なんて彼のことを病人としてみてしまう。
リースは、そんな私達の会話を黙って見ていたが、ピクリと何かに反応し、赤いマントを翻し、振返った。
「誰だ、そこにいるのはっ!」