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◆ 8話 偽MINAMO問題
夕方の商店街。
大学生の 三森りく(24) は、
灰のフード付きジャケットに水色ラインのMINAMOをかけ、
帰り道のスーパーで買い物袋を抱えていた。
すると、視界右端に不穏な通知が浮かぶ。
『UMI社公式:
“偽MINAMO流通についての注意喚起”』
りくは歩みを止めた。
「……偽?」
通知を開くと、
粗いフレームのコピー品の写真が16Kで表示される。
正規品よりツルが太く、
緑の触覚ラインも雑に塗られたような仕上がり。
『非公式モデルによる誤作動・視界記録流出が報告されています。
外観が類似していても正規品ではありません。』
りくが眉をひそめると、
後ろから声がした。
「それ……見た?」
振り返ると、
小野戸まひる(27) が立っていた。
黄緑のワンピースに薄灰のコート。
淡い黄緑フレームのMINAMOが彼女の顔立ちを柔らかく見せている。
「ニュースになってたよ。
偽MINAMOのせいで“勝手に録画”が起きたり、
知らない広告が視界に出るって。」
「え、それ……最悪じゃない?」
「うん。しかも値段が正規の半額だから、
買っちゃう人もいるみたい。」
その時、
すぐ横にいた男子高校生が叫んだ。
「ちょっ…やばっ…消えないんだけど!」
制服姿の
三好たいち(17)。
モカ色の髪が無造作に揺れ、
肩には緑の学生バッグ。
彼のMINAMOは微妙に作りが粗い。
視界の前に、
派手な広告ウィンドウがドカッと固定されていた。
“視界ポイントUP!”
“今日からあなたも収益化!”
まひるが小声で言う。
「……あれ、偽物だね。」
たいちは必死で指を振るが、
広告は全く反応しない。
「うわっ、怖っ……!
これ買ったとき“型落ち品”って言われたのに!」
りくが近づいて言う。
「たいち、それ偽MINAMOだよ。
本物はそんな広告出ないって。」
「マジかよ……どうすれば……」
ちょうどその時、
店頭の大型ディスプレイに
UMI社の緊急会見が映し出された。
登壇したのは、
開発責任者 佐伯ひなた(42)。
淡い緑のシャツに灰色のジャケット、
落ち着いた雰囲気。
彼女は静かに、しかし強く言った。
「現在、市場に“偽MINAMO”が出回っています。
正規品とは異なる挙動を引き起こし、
視界記録や個人情報が外部へ送信される危険があります。」
多くの買い物客が足を止めた。
「正規のMINAMOは、
ユーザーの視界データを本人以外へ送ることはありません。
しかし偽物は、その保証がありません。」
たいちは顔を青ざめさせた。
「俺……全部見られてたってこと!?」
りくは苦笑して肩をたたく。
「まあ、あんまり変なの見てなきゃ大丈夫じゃね?」
「見てたわ!」
まひるはため息をついた。
「たいちくん、あとで修理店に行こ。
偽物かどうか判定してもらえるから。」
たいちは頭を抱えたまま頷く。
***
帰宅したりくは、
自分のMINAMOを机に置きながらつぶやいた。
「偽物か……
便利になりすぎた反動かもな。」
すると、
りくのMINAMOが淡く光って文字を出す。
『私は正規品です。
りくの情報は守られています。』
「わかってるよ。」
『念のため、今日の動作ログを提示しますか?』
「いい。
……でも、ありがとな。」
視界がゆっくり暗くなる部屋で、
MINAMOの淡い光だけが静かに瞬き続けた。
技術が生活に溶けた社会で、
“偽物”はただの危険ではなく──
信頼の根元を揺さぶるものだった。
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