この声が嫌いだ。
みんなより高いこの声も、みんなより違うこの声も、綺麗じゃないこの声も。
________喉を潰してしまいたい。
「はーいみんな席についてね〜。」
担任の先生が教室に入ってくると同時に、チャイムが校内に鳴り響く。それが合図かのように、みんなは自席へと戻っていく。
ふと、担任の顔に目を向けると、ニコニコした顔でみんなのことを見ていた。
「今日はなんと…転校生が3人も来ます!!」
周りから歓声が上がる中、僕____しにがみだけは頬杖をついて窓の外を眺めていた。
「じゃあ、入ってきてくれますか?」
そう先生が声をかけた後に、教室のドアがガラガラと音を鳴らして開く。
どうせただの転校生だ。小さな声で挨拶しかできないのだろう。人の心情がよくわかる僕には、そう思うだけだった。
顔だけでも見とこう。そう思って顔を前に向けた瞬間だった。
「はじめまして!!ぺいんとって言います!エビフライが大好きです!!仲良くしてくださーい!!!」
教室中に、大きな声が響いた。いや、廊下まで聞こえていたと思う。
彼____ぺいんとさんは金髪で、明るそうな雰囲気を持っていた。そして、横に2人並ぶのは同じ男子だ。
「トラゾーです。よろしくお願いします。」
「クロノアです。猫が大好きです!仲良くしてください。」
比較的おとなしめで、3人ともおとなしめな人だと普通の人ならそう思うだろう。
けれど、僕からしたら最悪な転校生だった。
(………わかんない。)
転校生3人の気持ちが、心情が、わからないのだ。
普通の人ならば転校初日の挨拶なんて緊張や不安でむしり取られている。でも、彼らは違う。
彼らは________面白そうなのだ。
楽しみとか、嬉しいとか、ワクワクとかじゃない。3人で顔を見つめ合ってにこにこと笑っているのだ。
(_____あぁ、僕の苦手なタイプだ。)
心の中で、そう思った。
……………
「ねぇねぇ…」
「……。」
「ねぇってば!ねぇねぇ!!」
「…………。」
「ねぇ聞いてよ〜!」
そう言うのは、僕の後ろの席になってしまったぺいんとさんだった。ぺいんとさんは永遠に僕に話しかけてくるが、僕はそれをフル無視。
自分はそのまま屋上への階段まで逃げた。
……………
「……。」
1時間目が始まる予鈴が鳴った。
それでも僕はその場から動かず、屋上の扉の目の前で寝転んだ。
床が汚いと思うかもしれないが、僕は毎日ここにきて、ここを掃除しているため埃がつくことはないだろう。
「やっぱりここにいたー!」
「?!」
ふと大きな声が聞こえる。
びっくりして飛び起きれば、そこにいたのは転校生のクロノアさんだった。
挨拶の時は比較的大人しめだと思ったが、案外そういう人じゃないのかもしれない。
(……余計わかんないよ。)
心の中でそう呟いて、泣きそうになる。
「俺、しにがみくんのこと呼び戻せって言われたから……」
「! し、しにがみって、なんで僕の名前__________っあ。」
ふと、両手で口を押さえる。
喋ってしまった。
絶対に喋らないつもりだった。この醜い声を、聞かせたくなかったのだ。
でも彼は、気にせずに話し続ける。
「先生に言われたんだよ!”しにがみくん探してきてくれる?あの紫髪の男の子”って! 」
「………。」
やっぱり、先生は大嫌いだ。
僕のことを毎回探しに来させるとき、必ず説明する時は”男の子”と付け足す。
どうせ僕のためとか思ってんだろうけど、僕からしたらいらない気遣いだ。
「……僕のことはいいから、クロノアさんは授業に………。」
「……。…じゃあここにいようかな!」
「?!」
衝撃的な言葉を聞いて、目が丸くなった。
そんな僕のことを気にせずに、クロノアさんは僕の隣にストンっと座った。
「1時間目めんどくさそうだったからしにがみくんのおかげでサボれそう!ww」
「っ……。」
驚きで声も出ない。
やっぱり、こいつらだけは分からない。
転校生3人とも、全員。
「…なんでそこまで僕に突っかかってくるんですか?」
「?」
イライラした。
僕のことを知りもしないくせに、こうやって弄ばれてる気がして、無性に腹がたった。
「僕、貴方のこと嫌いです…すっごく。」
「………。」
体育座りをして、目を伏せてそう言った。 僕の予想通りに、相手は返事をしなかった。
ふと、軽快な足音が鳴る。
顔を上に上げれば、クロノアさんは階段を背にして、笑顔になっていた。
「ちょっ…クロノアさん?」
そう言うと同時に、クロノアさんは目を閉じて足を後ろに出して、そのまま段から足を踏み外した。
「_______っは?」
声が出た時、僕はいつの間にか体が動いていた。クロノアさんの手を掴み、自分の方へ引っ張る。その反動でか、立つことはできなくなり、そのまま後ろへ2人ともがゴツンと倒れた。
「っ…な、何してんすか?!あんたバカなんじゃないですか?!」
「…。」
僕がそう言うと、相手はびっくりした顔をしていた。
やっぱり、この人も、他の2人もわからない。
「あはは!しにがみくんに言われてもわかんないや!!」
「………はぁ?」
相手は声を出して、笑っていた。さっきまで焦っていた僕が馬鹿みたいだ。
………だけど、それよりも、だ。
(………僕、体動くんだ。)
咄嗟に体が動いた自分に、びっくりした。
コメント
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これは流石に「あいしてす」案件ですね