テラーノベル
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あれから数日たって
俺は隣の彼を名前で呼ぶようになった。
まあ、まだ心の中だけだけど。
授業中。
「……それ、逆」
隣から短く、声がした。
「え?」
英語の問題を見て固まっていた俺は、思わずいるまの方を見る。
「三単現、sつくやつ」
「あー、まじか。サンキュな」
礼を言うと、いるまはそれ以上何も言わずに前を向いた。
…でも、ちょっとだけこいつの生態がわかった。
こいつ、普通に教えてくれるんだよな。
それから、たまにだけど。
プリント回したり、消しゴム落としたら拾ってくれたり。
ほんの一言、二言だけのやり取りが増えた。
相変わらず無愛想だけど、思っていたより全然普通で。
むしろーー
(ちゃんとしてるやつ、かもな)
そんなことを考え始めた頃だった。
「ねぇ」
昼休み、後ろの席のやつに声をかけられる。
「最近さ、あいつと話してるよね」
“あいつ”がだれかなんて聞かなくてもわかる。
「まあ、隣だし」
軽く答えると、そいつは少し声を潜めた。
「あんま関わんない方がいいよ」
「なんで?」
「知らないの?」
少しだけ間があって。
「前の学校でさ、喧嘩して問題になったらしいよ」
やっぱり、その話か。
「それに、結構やばかったって聞いた」
「やばいって?」
「相手、怪我したとか」
周りの奴も何となく入ってくる。
「キレたら止まんないタイプらしいよ」
「見た目もそんな感じじゃん」
笑い混じりの声。
でも完全な冗談でもない空気。
「……ふーん」
適当に相槌を打ちながら、俺は前を見た。
ちょうどその時、噂の彼が席に戻ってくる。
一瞬だけ、目が合った。
すぐ逸らされたけど。
(……いやでも、)
あいつが、そんなことするように見えるか?
数日前のことが頭に浮かぶ。
無言でプリントを渡してきた手。
あの、小さい子供に向けた顔。
ーーでも
(もし、本当だったら、?)
放課後。
帰ろうとして席を立った時。
「…おい」
後ろから声をかけられた。
振り向くといるまが立っている。
「何?」
「……あんま、関わんない方がいい」
「は?」
一瞬、意味がわからなかった。
「……お前、普通にやっていけるタイプだろ」
ぼそっとした声。
相変わらず表情は読めない。
「だから、俺といるとーー」
そこで言葉が止まる。
「面倒になる」
短く、それだけ言った。
……なにそれ、
それ、こっちが決めることじゃねぇの?
「別に」
気づいたら口が動いていた。
「面倒とか、今さらだろ」
「……」
「それに、」
一瞬、言葉を選んで、
「まだ、そんな関わってねーし」
冗談っぽく笑う。
いつもの調子で。
その方が、楽だったから。
少し間があった後、
「そうか、」
それだけ言って、いるまは目を逸らした。
そのまま、会話は終わった。
いつも通り。
いつも通りのはずなのに。
帰り道、なんかずっと引っかかってた。
多分俺は、
噂も、
あいつのことも、
どっちもちゃんと見てない。
それが1番中途半端で。
1番、ダサい気がした。
コメント
2件
こめんと 失礼します🙇🏻♀️ 物語も書き方も めっちゃ好きです! 続き楽しみにしてます💭