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ウォルは、さらに身をゆだねた。
ジオンが発した言葉は真実《まこと》であると噛み締める為に。
「……ジオン、サンウを使いましょうか?」
「チホ……か?」
ジオンに、ウォルの考えは見通されていた。
サンウを使えば、自然、チホも動くと、ウォルは踏んだのだ。
──あれから、チホに付き添われたミヒは、うつむいたまま顔を上げる事はなかった。
ただ、散れなかったと、涙を流す彼女の姿の中にも、立ち上がろうとする力が溢《も》れ、新たな蕾が芽吹こうとしていた。
先へ生きる道を選んだのは――、ジオンがいたからこそ。
共に過ごしてきた時という名の絆は、定められた運命をも覆す力になったのか。
戦は、商人が扱う武器があって成りたつ。
それを断てば。
大陸一の武器商人サンウは、おそらく渋る。しかし、チホが上手くまとめるはずだ。
ミヒのために……。
心の声に逆らうなと、ミヒの決意を砕いた男。あのしもべなら。
きっと──。
「……ああ、かさむな」
一方、動くであろう鼻薬《ワイロ》を思い、ジオンは、煙管へ手を伸ばす。
阿片――、まさか、まだ――。
ウォルはぎくりとする。主は、悪習を断ち切れないのか。
「これは、もう、いらないだろう?」
ジオンは煙管をウォルに差し出した。
「これがあっては、戦を終えられない。それに……」
一瞬の間の後、ジオンが言う。
「ミヒを手に入れられないからな」
――戦のない、平穏な時が流れる所でなければ……。と、チホは言い、ミヒを連れ帰った。
別れ際、馬上のミヒは長衣を頭から被り、ジオンと目を合わせようとしなかった。
ただ――。
彼らの姿が黒点の如くになった時、ジオンは、目を見開いた。
そして、手を降ったのだった。
まるで、何か諭すように、わかったと言わんばかりに。
ジオンには見えていた。
彼方の先で、振り返り、こちらを伺うミヒの姿が──。
必ず、共に暮らせる場所を作ると、ジオンはミヒに伝えたのだ。
「ええ、早く終わらせて、ミヒを迎えに行きましょう」
「ウォル、長引かせると、厄介だぞ。ミヒのご機嫌取りは、たいへんだからな」
言って、ジオンは笑った。