テラーノベル
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紅茶とコーヒーが運ばれてくるまでの間も
純一はずっと楽しそうに、今日の嬉しかったことを喋り続けていた。
テーブルにちょこんと頬杖をつきながら俺をじっと見つめ
時折思い出したようにニコニコと笑いかけてくる姿は、見ているだけで心が洗われるようだ。
やがてケーキがテーブルに届くと
待っていましたと言わんばかりの勢いで小さなフォークを手に持ち、ぱくりと一口大きく頬張る。
その瞬間、彼の表情が心底幸せそうに蕩けた。
その姿を見ているだけで、昨日俺の胸の中で泣き叫んでいた彼の傷が
少しずつ癒えていくのが分かって、自然と俺の口元も緩んでしまう。
「おいひぃぃ……♡」
「ふふ、そんなに?」
「うんっ!いちごがすっごく甘酸っぱくて、タルトがサクサクなの!クリームも甘くてふわふわしてる……っ!」
「よかったね。はい、チョコも食べさせてあげるから口開けて?」
「あーん……♪」
いちごのタルトとチョコケーキをフォークで小さく切り分け
半分ずつシェアして食べ合いながら、穏やかな会話は途切れることなく続いていく。
純一が普段の会社での無口さに比べて
こんなにも饒舌になるのは、やはり大好きなものに囲まれているからだろう。
社会のルールに縛られないこの空間だけが、今の彼にとっての安全基地だった。
◆◇◆◇
贅沢なケーキをすべて平らげ、満足感と共に店を後にした、その直後だった。
案の定、店を出て数歩歩いたところで、純一の足取りが目に見えて重くなり
「……エネルギー、使いすぎちゃったかも」と力ない苦笑いを浮かべた。
さっきまで喜びと興奮でアドレナリンが大量に出ていた分
それが途切れて食べ終わった途端に
「一気にエネルギー切れを起こして疲れが出る」
というパターンは
高次脳機能障害の患者には非常に多く見られる現象だ。
感情の起伏や集中に、脳の全リソースを使い果たしてしまう。
「ちょっと、静かなところで休憩しよっか」
「うん…ごめんね、りひとさん……」
「気にしないで。純一が楽しんでくれた証拠なんだし」
近くにある、緑に囲まれた静かな公園のベンチに腰掛け、純一の背中を優しくさする。
しばらく何も言わずに休んでいるうちに
純一の少し上がっていた呼吸もゆっくりと落ち着いてきたようで
俺はホッと胸を撫で下ろした。
◆◇◆◇
それから、さらに10分ほどが経過したころ
風が少し冷たくなってきたのを感じ、俺は純一の顔を覗き込んだ。
「純一、まだ少し疲れてるでしょ。今日はもう帰ろっか……?」
無理をさせるわけにはいかない。
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