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「スズキ株式会社の社長は邪魔じゃございませんか?ご依頼いただければ殺して差し上げます。」
そんなメールが届いたのは4月のことだった。
差出人は不明。
スズキ株式会社とは、我が社と業界のシェアを2分するライバル企業だ。
現在の社長は創業者から数えて3代目のスズキ某だ。
昭和の精神力経営の権化のような男だ。
業界団体の懇親会などで顔を合わすこともあるが、口も鼻も大きく脂ぎったいけ好かない奴だ。
「どうやって殺すつもりだ?」
私は一向に上向かない営業成績の報告会議を終えたところだった。
社長室のデスクの上でため息をついた。営業成績は最悪である。
正体不明のメールに返信をしてしまったのだ。
「スズキ社長には病死でなくなってもらいます」
「いくらだ?」
「1000万円です」
私は面食らってその金額を口に出して叫んでしまった。
「いっ1千万・・・!」
だが冷静になって考えれば人が一人死ぬんだから、むしろ安いいくらいなのかも知れない。
バカバカしい。
私はメールが映し出されたパソコンに向かって毒を吐いた。
そしてメールには「わかりました、よろしくおねごいします」とうって返信をした。
イタズラのメールに決まっている。
だったらいたずらで返すのが道理だろう。
直ぐにメールには返信が来た。
三ヶ月から半年で仕事は完了するでしょう。
そう書かれていた。
「はいはい、分かりました」
そんなメールのことはすっかり忘れていた。
私には傾きかけた経営を何としても立て直さなければならないという使命があった。
悪戦苦闘の激務の中で部下にも非情な叱責や厳しい営業成績を求め続けた。
私が出社すると常務が社長室に駆け込んできた。
手には新聞が握られている。
「社長、これをご覧下さい」
新聞にはスズキ株式会社の社長が亡くなったと記載がされた。
死因ははっきりと書かれていないが病死のようだった。
「直ぐに幹部ミーティングを始めるぞ!」
これは我が社にとって一世一代の大チャンスかもしれない。
その日は、営業チームと細かな打ち合わせをして1日が過ぎていった。
一通のメールが届いていた。
「お約束は果たしました」
とあった。
私は冷たい手で心臓をつままれたような気がした。
あのメールだ。
こちらに振り込みをお願いします。
振込先と一千万という金額が書かれていた。
斉藤智恵子はナース専用のパソコンからメールを送信して電源を切った。
同僚の看護婦が近づいてくる。
「担当のスズキさん、残念だったわね」
「そうですね。でも半年以上前から分かってた病気ですから」
「あなたも大変ね。助からないことが分かってる患者ばかり押し付けられて」
「そうでもありませんよ」