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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第33話:神獣の眷属、爆誕。キタキツネが土下座した
圧倒的な超常現象(ベホマ)が起きた直後の、古民家の庭。
そこには、奇妙な静寂が流れていた。
つい先ほどまで、足の肉がえぐれ、死の淵を彷徨っていたはずの野生の子狐。
それが今や、高級サロンで極上のシャンプーとトリートメントを受けた直後のような、圧倒的なフワフワの毛並みを揺らしながら、庭のど真ん中に鎮座している。
いや、鎮座しているのではない。
「キュゥン……」
子狐は、両方の前足をピタリと揃え、その間に自分の鼻先を深く擦り付けるようにして、純白の猫(シロ)の前に平伏していた。
それはかつて、裏山の覇者である巨大ヒグマが見せた、大自然の絶対的頂点に対する『降伏と服従』のポーズ。
いわゆる、完全なる『土下座』である。
『ミャウ(苦しゅうないわ)』
シロは女王様のようにフンッと鼻を鳴らし、ひれ伏す子狐の頭をポンポンと肉球で撫でた。
「……なぁ、小春ちゃん」
「……はい、なんでしょう、お兄さん」
俺と小春ちゃんは、縁側からその神話のような光景を半ば呆然と見つめていた。
「野生動物って、あんなに綺麗に土下座する生き物だったか?」
「私の記憶が確かなら、あんなに礼儀正しいキタキツネは、生物の教科書のどこにも載ってないはずです」
俺たちは揃って深いため息をついた。
配信のチャット欄は、この新展開に完全に沸き立っている。
『土下座キターーーーーー!!!』
『ヒグマに続いてキツネまで屈服させたぞ!!』
『シロ様、裏山の生態系を完全に支配しつつある』
『完全に極道の親分と舎弟の挨拶で草』
『さっきまで死にかけてたのに、毛並みピッカピカで笑う』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”Beautiful hierarchy of nature! Shiro is the true King!“(美しい自然の階層だ! シロこそが真の王だ!)』
世界中がシロの圧倒的なカリスマに熱狂する中、俺は立ち上がり、パンパンと手を叩いた。
「よし、キツネ。怪我も完治したみたいだし、もう大丈夫だろ。暗くなる前に、裏山の巣に帰りなさい。シッシッ」
俺が両手を振って森の方へ促すと、子狐はビクッと肩を揺らし、慌ててシロの背後へと隠れた。
そして、俺に対して「カァッ!」と鋭い牙を見せ、威嚇の声を上げたのだ。
「おっ、なんだ。助けてもらったのに恩知らずなやつだな」
「お兄さん、違いますよ! あの子、シロちゃんを護ろうとしてるんです!」
小春ちゃんが指差した通りだった。
子狐は俺を警戒しているというより、俺という『謎の巨大生物』から、自分の命の恩人であり絶対的親分であるシロを庇うように立ち塞がっているのだ。
『ミャウ(やめなさい)』
シロが振り返り、子狐の鼻先をペシッと軽く叩く。
すると子狐は、一瞬にして牙を引っ込め、「キュゥゥン……」と情けない声を上げて耳をペタンと寝かせ、再びシロの足元にスリスリと擦り寄った。
「……どうやら、完全にシロの舎弟(ボディガード)になる気満々みたいだな」
俺が額を押さえていると、小春ちゃんが目を輝かせて子狐に近づいていった。
「あわわ、小春ちゃん! だからエキノコックスが――」
「大丈夫ですよ、お兄さん! 見てください、この子の毛並み!」
小春ちゃんが子狐の背中にそっと触れる。子狐はシロが許した相手だからか、大人しく撫でられている。
「シロちゃんが触った瞬間、泥汚れもノミも、全部光になって消えちゃったじゃないですか。それに……すごくいい匂いがします! お日様と、ベビーパウダーみたいな匂い!」
俺も恐る恐る手を伸ばし、子狐の頭を撫でてみた。
「……うおっ。なんだこの手触り。シルクか?」
指の間に滑り込む黄金色の毛並みは、野生動物特有のごわつきや獣臭さが一切ない。
間違いなく、シロの放った『神聖な光』によって、体内の寄生虫はおろか、細胞レベルで完全に浄化(滅菌)されている。もはや世界一清潔なキタキツネだと言っても過言ではない。
「これなら、触っても全く問題なさそうだな……。お前、本当にここに住み着く気か?」
「キュンッ!」
子狐は元気よく返事をし、シロの尻尾を大切そうに両手(両前足)で抱え込んだ。
「仕方ないですね、お兄さん。こんなにシロちゃんに懐いちゃったら、森に帰してもまたすぐ戻ってきちゃいますよ」
「まぁ、エサ代くらいは俺がコールセンターで稼ぐ……いや、もう俺働いてないんだった。まぁ、この前無人販売所で稼いだ100円玉の山があるから、ドッグフードくらいは買えるか」
俺が諦め混じりに呟くと、チャット欄が猛烈な勢いで反応した。
『主!! エサ代なら俺たちが払う!!』
『(スイスの銀行家からの¥50,000ギフト)=”I will send premium fox food immediately! Please let him stay!“(最高級のキツネ用フードを直ちに送る! 彼を滞在させてやってくれ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500ギフト×2連発)=”I will sponsor the little fox!“(私がその子狐のスポンサーになるわ!)』
「あははっ、お兄さん! 5秒で一生分のエサ代が集まりましたよ!」
「……そうだな。相変わらず世界中の大富豪たちは、うちの家計を支えるのに必死みたいだ」
俺は苦笑しながら、子狐の顔をまじまじと見つめた。
「ここに住むなら、名前が必要だな」
「そうですね! 可愛い名前がいいです! ポンちゃんとか、ルルちゃんとか……」
女子高生らしいキラキラしたネーミングを提案する小春ちゃん。
しかし、俺は限界社畜として、無駄を削ぎ落とした合理的な判断を下した。
「すでにいるコン吉の弟分だから……『コン次郎』だな」
「――――えっ」
小春ちゃんが、信じられないものを見る目で俺を見た。
「こ、コン次郎……? お兄さん、昭和のおじいちゃんみたいなネーミングセンスですね……」
『コン次郎wwwwwww』
『ネーミングセンスが昭和のそれ』
『コン吉とコン次郎。安直の極み』
『だがそれがいい! 限界集落にはぴったりの名前だ!』
『コン次郎爆誕!!!』
「キュン?」
俺が「コン次郎」と呼ぶと、本人は案外気に入ったのか、嬉しそうに尻尾を振って俺の手に鼻先を押し付けてきた。
「ほら、本人も気に入ってるだろ。今日からお前はコン次郎だ」
かくして、俺たちの平和なスローライフに、コン吉に続く新たな『もふもふの眷属』が正式に加わった。
しかし、コン次郎のシロに対する『忠誠心』は、俺たちの想像を遥かに超えていた。
その日の午後。
縁側から庭へ降りてお散歩しようとするシロの前に、コン次郎がサッと飛び出した。
そして、ふさふさの尻尾を使って、シロが進むルート上にある小石や枯れ枝を、シャカシャカと猛スピードで掃き清め始めたのだ。
『ミャウ(ご苦労)』
シロは当然のように、綺麗になった道を優雅に歩いていく。
さらに、シロが縁側で日向ぼっこをしようと立ち止まると、コン次郎は誰に教わったわけでもなく、自らシロの足元に伏せ、極上の『モフモフ座布団』へと変形した。先住のコン吉も負けじと反対側に伏せ、ダブルキツネ座布団が完成する。
シロが彼らの背中の上に丸くなると、三匹の毛並みが溶け合い、究極の癒やしオーラが倍増して周囲に放たれた。
「……おいおい。あいつら、完全にシロの世話係(付き人)になってるぞ」
俺は縁側でほうじ茶を啜りながら、その光景に呆れ果てていた。
「ふふふっ、すごいですね! コン次郎くんも、シロちゃんのお手伝いさんみたいです! えらいえらい!」
小春ちゃんがカメラを回しながら、もふもふの三重奏にメロメロになっている。
『コン次郎有能すぎるww』
『尻尾で道掃いてて草。ルンバかよww』
『親分(シロ)のために体を張る舎弟たち』
『これは推せる。新たなトリオの誕生だ』
『世界一平和なヤクザの組長と若頭たち』
視聴者たちも、コン次郎の健気な働きぶりにすっかり心を奪われているようだった。
「まぁ、あれだな。キツネはイヌ科の動物だから、野生の群れの中で『より強い個体』に従う習性があるんだ。シロのボス猫としての威厳と、あのフェーン現象(マイナスイオン)の暖かさに、生存本能が屈服したってところだな」
俺がもっともらしいトーンで解説を始めると、隣で小春ちゃんがジト目でこちらを睨んできた。
「お兄さん……まだそんなこと言ってるんですか?」
「え?」
「威厳だけで、えぐれた足の肉が数秒で再生するわけないじゃないですか! それに、ネコ科のシロちゃんにイヌ科のキツネが仕えるなんて、生物学的に絶対におかしいですよ!」
「いや、だから北海道の厳しい自然環境が生み出した、異種間の奇跡的な共生関係が――」
「苦しいです! 今日の言い訳は過去最高に苦しいです!」
『小春ちゃん、もっと言ったれww』
『主、息を吐くように現実から目を背ける』
『異種間の奇跡的な共生関係(魔法)』
『適応力バグおじさんの理論武装、今日もボロボロで草』
俺の必死の現実逃避は、小春ちゃんのキレキレのツッコミと、200万人の視聴者からの大爆笑によって、あっさりと崩れ去った。
「キュンッ♪」
「ミャァ……」
庭では、黄金色のキツネたちの背中の上で、純白の猫が気持ちよさそうに丸まっている。
どう理屈をつけようと、目の前にあるこの圧倒的に尊い、もふもふの光景が全てだった。
「まぁ、コン次郎も来てくれて、シロもコン吉も退屈しないだろう」
俺はほうじ茶をぐいっと飲み干し、春のような暖かさに包まれた縁側で大きく伸びをした。
奇跡の野菜が実り、野生のキツネたちが舎弟になる。
そんな規格外のイベントが起きようとも、限界社畜が手に入れたこの古民家での生活は、今日も変わらず『圧倒的な平穏』の中にある。
世界中が見守る北の大地のスローライフは、新たな家族(眷属)を迎え、さらにポカポカと、賑やかに続いていくのだった。
コメント
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わあ、コン次郎爆誕おめでとうございます!🥺✨ シロの前に土下座して忠誠を誓う姿、もう完全に極道の親分と舎弟じゃないですか。しかも自分から道掃いたり座布団になったりする健気さにやられました…「異種間の奇跡的な共生関係」って言い張るお兄さんの現実逃避も含めて全部尊い。コン吉とダブルでもふもふになった光景、もっと見たいです!