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.....꒰՞⊃>⸝⸝⸝⸝<⊂՞꒱՞՞
想像したら泣けてきた…続き楽しみすぎる!
夜。
ゆうはアパートの階段に座っていた。
部屋に入る気がしない。
ポケットの中のスマホが重い。
画面を開く。
連絡先。
なつ。
消したはずなのに、残ってる。
指が止まる。
「……甘いな」
自分に言う。
壊しに行ったはずだった。
責めて。
選ばせて。
傷つけて。
それで終わるはずだった。
なのに。
“いる”
その一言が、頭から離れない。
一緒にいるなら、いる。
救うとかじゃなくて。
ゆうは、壁に背中を預ける。
息が浅い。
数年前の夜と似ている。
静かで。
ひとりで。
誰にも気づかれない夜。
スマホが震える。
通知じゃない。
錯覚。
心臓がうるさいだけ。
「……最悪」
目をこする。
涙は出ない。
代わりに、笑いが出る。
「なんでまだ期待してんだよ」
選ばれなかったのに。
それでも。
もしかしたら、って。
その瞬間。
着信。
画面に表示される名前。
なつ。
呼吸が止まる。
出ない。
出られない。
でも切れない。
震える指で、通話を取る。
「……何」
声が少し荒い。
なつの声が、少しだけ遠くから届く。
「今どこだ」
命令じゃない。
確認でもない。
必死さが混ざってる。
ゆうは笑う。
「ヒーロー気取り?」
でも。
なつは言う。
「違う」
短く。
はっきり。
「俺が会いたい」
沈黙。
その言葉は、ゆうの想定にない。
謝罪でも。
正義でもない。
“会いたい”。
「……なんで」
喉が詰まる。
なつは少し息を吸う。
「選び直すため」
夜の空気が揺れる。
ゆうの胸の奥で、何かが崩れる。
壊しに行ったはずなのに。
壊れているのは、自分。
「……遅いんだよ」
声が震える。
怒りじゃない。
限界。
「俺、何回あの夜思い出したと思ってんだよ」
言葉が止まらない。
「何回、電話画面見たと思ってんだよ」
階段に座り込む。
もう立てない。
「選ばれなかった側はな」
声がかすれる。
「ずっとあの夜にいるんだよ」
沈黙。
なつは切らない。
逃げない。
「……迎えに行く」
静かな声。
ゆうは笑う。
「いらねえよ」
でも本音は逆だ。
息が乱れる。
過呼吸に近い。
怖い。
また選ばれなかったら。
それが一番怖い。
「ゆう」
なつの声が、少しだけ強くなる。
「今度は、俺が手伸ばす」
その言葉に。
ゆうの視界が滲む。
強くなりたかった。
壊れた側じゃなくて。
でも。
もう無理だ。
「……来いよ」
ほとんど聞こえない声。
それでも。
確かに。
助けて、だった。
夜の街は静かだった。
なつは走っていた。
息が上がる。
でも止まらない。
数年前の夜。
“明日でいい”と切った自分を、置いていくみたいに。
古いアパート。
外階段。
そこに、ゆうはいた。
うずくまっている。
肩が上下している。
呼吸が乱れている。
なつは、ゆっくり近づく。
「……ゆう」
名前を呼ぶ。
数年ぶりに、ちゃんと。
ゆうは顔を上げない。
「遅い」
かすれた声。
「ほんと、遅い」
なつは、少しだけ間を置く。
逃げない。
言い訳もしない。
「ごめん」
ゆうが笑う。
力のない笑い。
「それ、何回目だよ」
なつはしゃがむ。
視線を合わせる高さまで。
ゆうの目は赤い。
でも、泣いてはいない。
「俺、怖かった」
なつが言う。
「お前が壊れていくの、見てるの」
ゆうの眉が動く。
「背負える自信なかった」
正直すぎる。
格好つけない。
「だから逃げた」
風が吹く。
夜が冷たい。
ゆうの拳が震える。
「俺は」
声が詰まる。
「俺は、背負ってほしかったわけじゃない」
やっと、出た本音。
「ただ、隣にいてほしかった」
沈黙。
その言葉が、数年分の答えだった。
助けて、じゃなくて。
一緒にいて。
それだけだった。
なつの喉が鳴る。
数年前、聞けなかった言葉。
「……今は?」
静かに聞く。
ゆうは目を閉じる。
怖い。
また選ばれなかったら終わる。
それでも。
「今も」
小さい声。
「隣にいろよ」
弱さを隠さない声。
なつは、ゆっくり手を伸ばす。
触れるか、触れないかの距離。
「いる」
即答。
今度は迷わない。
「守るとかじゃない」
少しだけ、笑う。
「隣にいる」
ゆうの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。
壊しに来た夜が、
崩れていく。
ゆうは、ゆっくり顔を上げる。
「……いるまは?」
不安が混じる。
なつは答える。
「待ってる」
排除しない。
隠さない。
選び直すって、そういうこと。
ゆうは、長く息を吐く。
完全には許せない。
簡単には戻れない。
でも。
あの夜から止まっていた時間が、
少しだけ動く。
なつは立ち上がる。
「帰るか」
ゆうは一瞬迷う。
あの家。
自分が壊しに行った場所。
それでも。
「……今日は、無理」
正直に言う。
なつはうなずく。
「じゃあ、ここにいる」
階段に座る。
隣に。
距離は少しある。
でも。
離れない。
ゆうは小さく呟く。
「ほんと、ずるいな」
でもその声は、
もう壊す側じゃなかった。
#黄