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 それから朝食を済ませた後、菊はこんなことを言った。


「折角ですから……気分転換も兼ねて、隅田川辺りを散策しませんか?」

「隅田川……別に良いけど、俺は顔を隠さなきゃなんだぜ。如何せん、厭でも有名人だから……」

「まだ早朝ですし、其処まで人は多くないでしょうから……多分大丈夫ですよ」

「……それなら、眼鏡は良いかな。マスクだけ着けていくんだぜ」


 そんなわけで早速着替えて、菊と一緒に外に出る。3月半ばの東京は、やや肌寒くとも大分温かい。この時期のソウルは、まだ一部で雪が残っていて寒いのに。


「……桜、もう少し先ですね」

「うん?」

「ほら、彼処。蕾が少し色付いているでしょう?」


 菊が指さした先は、近隣の民家の庭に植えられた、1本のポッコの木。ブロック塀を越えて伸びた梢の先には、ほんのり淡く色付いた蕾が一つ、二つ。


「ふふ、もうすぐ春ですね」

「…………そうなんだな」





 それから少しして、俺たち二人は隅田川の河川敷にある公園に辿り着いた。


 川沿いには、数多のポッコの木。当然ながら、ついているのはまだ蕾だ。


「4月になると凄く綺麗なんですよ、此処。一斉に桜の花が咲いて、見応えしますよ」

「……へぇ」

「また時期が来たら、一緒にお花見しましょう」

「……ああ、そうだな」


 今はまだ、うら寂しく荒涼としているが……その先の未来にある美しい情景は、俺も何となくだが想像出来た。確かに、凄く凄く綺麗に違いない。


 韓国にも桜はあるが、あれは在日同胞たちが寄贈した、日本産のものだ。かつての統治時代においても、日本から持ち込まれて植えられてたらしいが、WW2の終結直後に伐採されたとも。


「桜の起源は韓国だ!(※)」と、何処ぞやの馬鹿パボが宣っていたのはいつだったか……


 ※……因みに「王桜」という品種は、正真正銘韓国発祥の桜である。済州島原産。


 ……無駄話はここまでにして。俺は徐ろに、辺りを見回した。当然ながら人は少なく、向こう岸にでかでかと聳え立つスカイツリーをバックに、チワワと散歩しているアジュンマおばさんや、ウォーキングしているアジョシおじさんが、遠くでちらほら行き交う程度だ。更に向こうでは……ラジオ体操をしているお年寄りの夫婦や、部活動の朝練なのか、ジョギングしている男子高校生が、5〜6人ほど。


 其処から視線を反対側に移すと、1台の自販機とベンチがあるのが見えた。ひとまずは……彼処で一服するか。


 俺は菊に声を掛けた。


「あっちへ行くんだぜ、菊。丁度自販機とベンチがあるんだぜ」





 自販機で温かなココアを買い、二人でベンチに座って飲む。スチール缶の飲み口から漂うのは、甘い匂いと白い湯気。


「そういえば……私達が出会った場所って、こういう河川敷の公園でしたよね」

「……そうだったな。確か漢江ハンガン公園だったか」

「ええ。あの時の私は、親の仕事の都合で韓国にいましたから。こんな感じで、いつもベンチに独り座って……」


 朝の淡い陽射しを浴びながら、ふと思い出すのはあの時のこと。


 俺は空を見上げて、これまでのことを回顧した────

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