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「――――ール様、エトワール様」

「ん……ここ、何処?」

「目が覚めたのですね。良かったです」

「……死んだと思ってたの?」




そう私が睨み付ければ、グランツは、無表情に戻ってスンと顔をすましてしまう。先ほどまで、必死に私の名前を呼んでいたのが嘘みたいに。本当にポーカーフェイスだなあ、と感心してしまうが、そこがいけ好かないともいう。

私は、身体を起こし、ここが何処か辺りを見渡した。聖女殿でもなければ、攻略キャラの家でもないようで、どちらかといえば質素な宿屋のように見えた。




「転移先を考えていなかったので、前にお世話になった宿屋の近くに転移しました。事情を話して、今、部屋を借りているのです」

「そ、そう……」

「まだ、お体が優れませんか?」

「うん?ああ、じゃなくて……ううん、何でもない」




前にお世話になったの、前、がいつなのか分からなかったけれど、そういえば平民上がりの騎士というのがグランツ本来の設定だったなあと思いだした。それがまさか、亡国の第二王子なんて飛んでも設定があとから判明するなんて思ってもいなかった。だから、一応、王族として、接した方が良いのかと一瞬躊躇ってしまう。でも、きっとグランツはそんなこと望んでいないんだろうなって言うのが、彼の反応を見れば分かる。




(まあ、滅ぼされちゃった国な訳だし……その時のこととか思い出したくもないよね……)




私だったら思い出したくない。そう思いながら、私はグランツをちらりと見た。本当にもう体調が万全といわんばかりに、彼はぴんぴんしているように思えた。そして、その空虚な翡翠の瞳にはかすかな光が戻っている。元々、ガラス玉みたいなめをしていたから、光さえ、反射しなかったというのが正しいのだけど。




(さて、聞きたいことが山ほどあるから、何から聞こうかしら)




聞きたいことは山ほどある。それはもう本当にエベレストぐらいあるのだ。




(というか、何で私また気を失ってたの?)




魔法石を加工して作られた転移石みたいなものだと思ったのだけど、詠唱を唱えたってことは、加工していない魔法石を使ったということだろうか。だから、その転移の際に起きる波長というか、乱れというか、ああ言うので酔って気を失ってしまうっていう場合もあるけれど。大分、転移魔法の酔いにはなれてきたと思っていたんだけど。




(何で?体調でも悪かった?)




悪かったのは、精神だけだと思っていたし、何より、そこまで距離を移動していないみたいだから(皇宮が見えるし)、そんな歪みも乱れもそこまで起きないはずなのだけど。




「な、何、じっと見つめて」

「いえ、本当に体調が優れないのかと思いまして。でも、その様子だと大丈夫そうですね」

「……何か、生意気になった?」

「反抗期という奴でしょうか」

「本当?私の事なんだと思ってるの?てか、反抗期!?」




グランツがキョトンとした顔で言うので一瞬本当なのかと思ってしまった。




(反抗期って、滅茶苦茶可愛い言い方する――!?)




反抗期って思えば、可愛くないんだけど、グランツってこんな冗談いうこだったかと、驚いてしまった。何というか、久しぶりに喋るせいで、こんなキャラだったのかと、朧気な記憶が、うん、と言ってくれない。

私は、咳払いをして、グランツを見る。何も分かっていない。少しだけ、襟足が伸びたくらいだろうか。私は、無意識のうちに彼に手を伸ばしていた。彼は、膝を折って、私に頭を垂れる。




「……」

「…………」




彼の亜麻色の髪はふわふわとしていて気持ちが良かった。彼の顔は、少し長い前髪で隠れて見えなかったけれど、嫌がっている素振りはないし、このままで良いかな、何て思いも、出てくる。彼に触れたのは久しぶりというか、あんまりグランツに触ったという思い出がないのだ。誰かさん達のスキンシップが凄いせいで。




(って、こんなことしてる場合じゃないの!)




私は我に返って、手を引っ込めようとしたが、少しだけグランツが顔を上げる。ちらりと見えた、その翡翠の瞳には、欲望が見え隠れしている。




「何?」

「もう、撫でてくださらないのですか?」




と、グランツが問いかけてくる。撫でて欲しいならそう言えば良いのに、でも立場的に何かを言えるような人間ではないと、グランツは理解しているのだろう。所詮は、主人と護衛なのだから。




(分かってる……でも、甘やかしたら、また……)




私が甘やかしたから、ああなったって、自分では思っている。だからこそ、これ以上彼を甘やかして良いものか分からなくなってくるのだ。彼が、私に踏み込んでくるから。踏み込むのをよしとしてしまえば、彼はずかずかと入り込んでくるだろうと思って。勿論、線引きはしているだろうけれど、その境界線が甘くなる。




「撫でて欲しいの?」

「……いえ、そういうわけでは」

「本当は撫でて欲しいんでしょ。立場がどうだ、とか考えて、そこを上手く利用していわないのはずるいと思う」

「すみません」




と、グランツは謝る。謝罪が欲しいんじゃなくて、何を考えているか知りたいのだ。私を裏切ったこととか、敵側に寝返ったこととか。ユニーク魔法、第二王子だっていうこととか。そういうのを含めて全て聞きたい。どうやって聞き出すのがベストなのか、私も分からなくて申し訳ないとは思っているけれど。




「まず、謝罪はないの?確かに、さっきはピンチだったし、助けて欲しいって願った。勿論、まだ私にだってアンタに対する思いはあるから、護衛に……って、考えてる。でも、何もなしに戻れると思わないで」

「エトワール様……俺は」

「軽い謝罪ならいらない。謝罪は欲しいって言ったけど、そうじゃないでしょ。分かるでしょ、グランツなら」




自分でもいっていることが滅茶苦茶だった。謝罪を求めているけれど、薄っぺらい謝罪はいらないって、ごめんなさい、すみませんでした、ですむならそれこそ警察がいらないから。だからこそ、彼の誠心誠意籠もったものが聞きたいし、見たい。

グランツは顔を上げ、それから、翡翠の瞳をその場で漂わせた。言葉を選んでいるのか、逃げ道を探しているのか分からなかった。でも、私は逃がす気は無い。




(何か、ずっと離ればなれだったから、感覚が取り戻せずにいるけど、こんな感じで良かったんだっけ)




グランツは、初期の方に出会った攻略キャラだった。そして、私が自ら護衛をと選抜した人間でもあって。凄く思い入れがある分、彼に裏切られたときの衝撃は大きかった。でも、色々あって、その裏切られた悲しいという気持ちが怒りから呆れに変わっていって、めまぐるしい日々に、彼を忘れていったりもした。

だからこそ、彼とちゃんと向き合うのははじめてなようなきがする。

だって、全然思えば、グランツの事を知らないから。




「エトワール様、俺は……エトワール様のことを思って行動しました」

「……」

「ですが、それは自分勝手なことで……俺の欲望のために動いていたと、あとから分かりました。俺は、エトワール様の全てが欲しかった。信頼も、愛情も……貴方から貰えるもの全てが俺にとっては、掛け替えのないものだった。でも、それだけじゃ、満足できなくなって……あなたの全てが欲しいと思うようになった。その気持ちが抑えられなくて……!」




泣きじゃくる子供のようだった。

実際泣いてはいないけれど、その翡翠の瞳からいつ、涙が零れても可笑しくないなあなんて何処か遠くを見るような目で彼を見ている。

今度は私が、アクリル板に隔てられたように、彼を見ている感じがした。

彼もまた、私に恋心を抱いていたのかと。




(何となく分かっていたんだけどね……それを気づかないフリをした。それを、利用してしまったのかも知れない)




あの時の私は鈍感というか、絶対にあり得ないなんて決めつけて、多くの好意を踏みにじってきた気がする。そうして、皆が狂っていくのを私は止められなかった。

グランツがこんな風になったのも、吐き出してしまいたいぐらい狂ってしまったのも、全部私のせいだったのかも知れない。

私のした事は、本当に意味があったことなのだろうかと。




(何も終わってないし、解決していない。解決した気になっていた)




私は、災厄を終わらせたことで、全てが終わったことって、過去に流してしまっていたのかも知れない。人のこと、考えない。私こそ、我儘で身勝手だと。


そう、思えた。


【番外編~巡廻~】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたい

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