テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
🫧第21章:泡の重なりと遠い声
🌌 音の残響
放課後、律は音楽室にひとり残っていた。
鍵盤の上に置いた指は、まだ音を鳴らしていない。
ただ、空気の中に“昨日の聖名の言葉”が残っていた。
「聴かせない音が、一番届いたの」
その言葉が、律の中で泡のように膨らんでいた。
音を鳴らす前の沈黙が、すでに誰かに届いている気がした。
彼は鍵盤に触れず、譜面の余白に指を滑らせた。
その指の動きが、泡図書館の奥で“記録されていない記録”として微かに揺れた。
🫧 泡の重なり
その夜、泡図書館の分類棚に異変が起きた。
誰の記録でもない泡が、ふたつ重なっていた。
ひとつは律の“音を鳴らす前の気配”。
もうひとつは、名前のない“夢の中の声”。
ねむるはそれを見て、分類を保留した。
「これは、まだ誰のものでもない」
泡が夢を持ち始める時、それは記録ではなく“予兆”になる。
🫧 遠い声
翌朝、聖名は泡日記を開いた。
ページの隅に、律の音とは違う“声の痕跡”が残っていた。
それは彼女が知らない誰かの声。
でも、律の音に重なっていた。
「魔法少年は、律じゃなかったのかもしれない」
聖名はそう思った。
けれど、それは悲しみではなく、泡の中に咲いた“遠い声”への敬意だった。
彼女はその声に、名前をつけなかった。
泡の余白に、ただ小さく「届いた」とだけ書いた。