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第9話:魔族と祝祭
魔王城の広場が、いつになく騒がしい。
「今年もこの季節か……」
ゲルダが長椅子に腰を下ろしながら言った。
「“冥花(めいか)祭”。魔族が古くから祝う“死と再生”の祭りだよ」
ネムルが毒草の花束を抱えながらつぶやく。
広場の装飾はどれも異形だ。
黒と紫を基調にした提灯、骨の彫刻、三つ目の小像が並ぶ露店――
人間から見ればどこか「不吉」で、異様な光景。
「えっと……あの……このおまんじゅう、なんで目がついてるんでしょうか……?」
トアルコが手に持った菓子を眺めながら、リゼに尋ねる。
「縁起物。“見られていることで悪意を寄せつけない”って意味」
淡々と答えながら、彼女は屋台の串焼きを口に運ぶ。
「……なるほど、でも……ちょっと怖いですね……」
苦笑いしながらも、トアルコは祭りを歩き回っていた。
その様子を見ていたパクパクが、満面の笑みで叫ぶ。
「ねーねー! 人間たちも呼んだらどう? “共に楽しめる祭り”って最高じゃん!」
一瞬、その場が静まりかえった。
「人間を、魔王城の祭りに?」
「混乱を招くだけでは?」
だがトアルコは、そっと言った。
「文化を知るって、大切だと思うんです。
“違う”って感じるからこそ、“知りたい”って思えるのかもしれないって……」
そして数日後――
招かれたのは、アステリアの市民代表と、選定騎士団からの見学者たち。
トアルコは直々に案内係となり、「目のついたまんじゅう」を丁寧に勧めていた。
「目は、悪意を遠ざける……ふむ、なるほど」
真顔で解説を受ける騎士団の青年たち。
「……見た目に反して、味は普通のこしあんだ……」
一方、ある人間の少女が毒草のブーケに顔をしかめる。
「これ、毒草じゃ……?」
ネムルが眠そうに答える。
「そうだよ。でも“毒”って、“触れないように大切にする”って意味もあるんだよ」
「嫌われるものも、ちゃんと役目があるって……ぼくは、そう思ってる」
少女は言葉に詰まり、そっと花束を受け取った。
「……じゃあ、この子も……私の部屋に飾ってみようかな」
夜。魔王城の空に、緑と金の花火が打ちあがった。
文化の違いは埋まらない。けれど、その夜だけは、
違う者たちが“同じ夜空”を見上げていた。
トアルコは、花火の光に照らされながら、そっと微笑む。
「違っていても、わかり合える時間は……あるんだなあ……」