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広間のテーブルに並んでいるのは、今日は素朴な陶器のティーカップだった。 細やかな磁器の代わりに土の温もりを感じさせる器。
そこから立ちのぼる香りは、いつもよりも深く落ち着いている。
窓の外には、大地がどこまでも広がっていた。
川を抱き、丘をつくり、空と雲を支えている。
まだ荒々しい景色なのに、不思議と安らぎを感じさせる。
「彼はとても真面目だったね」
光が湯気を見つめながら呟いた。
「ずっと重たいものを背負って歩いてきたんだ」
「でも、重さがあるからこそ、歩みを止めなかったのよ」
闇は静かに笑った。
「ただ、抱えすぎれば土に沈んでしまう。――それも土の性質」
ふたりは顔を見合わせ、カップを軽く掲げる。
陶器同士が触れ合い、低い音を響かせた。
「これで、空と水と炎も安心して居場所を持てるね」
「うん。少しずつ形になってきた」
窓の向こう、赤と青と風が寄り添う空の下に、確かな世界の骨格が築かれている。
二人はそれを眺めながら、また微笑んだ。
「次は、どんな人がここを歩くのかしら」
「きっとまた、新しい色を運んでくれる」
静かなティータイムの中、館の奥深くにまで大地の余韻が染み込んでいった。