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人狼

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人狼

6 - 第6話

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60

2024年12月27日

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【登場人物】

ロドリグ=ベッソン(集落の長)

レナルド=ベッソン(長男)

アドルフ=ベッソン(次男)

エリーゼ=ベッソン(レナルドの妻)

アリアーヌ=ベッソン(レナルドとエリーゼの子)


アダム=アルファン

【処刑】パトリシア=アルファン(アダムの妻)

ベルトラン=アルファン(アダムとパトリシアの子・長男)

リュカ=アルファン(アダムとパトリシアの子・次男)


《殺害》ウィリアム=ジスカール

【処刑】アネット=ジスカール(ウィリアムの妻)

<不明>ヘレナ=ジスカール(ウィリアムとアネットの子・長女)

<不明>マリアンナ=ジスカール(ウィリアムとアネットの子・次女)


《殺害》ジル=グローデル

ジュリー=グローデル(ジルの妻)

フルール=グローデル(ジルとジュリーの子・長女)

《殺害》ジャン=グローデル(ジルとジュリーの子・長男)


アルベール=ロワイエ

ジョルジュ=ロワイエ(アルベールの子・双子の兄)

ジョスティーヌ=ロワイエ(アルベールの子・双子の妹)


【処刑】ボッブ=ラグランジュ(独身)





【五日目】


日の出前、誰かの怒声で目が覚めた。

レナルドが飛び起きて外に出ると、アルベールに追われるリュカの姿があった。

リュカもアルベールもなぜか血塗れで、リュカは獣のように四つん這いで逃げていた。


「リュカ!アルベール!!」


「そいつが人狼だ!!」


アルベールが叫んだ。


「なんだって!?」


「兄貴を、アダムを殺しやがった!!」


その言葉にレナルドは驚きを隠せなかった。

細い川を飛び越えようとしたリュカに、アルベールは手にした猟銃を放つ。銃弾はリュカの右足を貫き、体勢を崩した彼は川べりに倒れる。


「リュカ!!」


レナルドが追いつくよりも速くアルベールはリュカの元に駆け寄り、その銃口を向けた。


「アルベール!!どういうこと!?」


そこにロドリグ、エリーゼ、ジュリーがやってきた。


「こいつがアダムを殺したんだ」


「そ、そんな!?まさか、リュカが人狼だったの!?」


リュカはまるで獣のように唸り、血走った目でアルベールを睨みつける。


「本当にリュカがやったのか?」


「兄貴を殺した奴を見間違えるわけねぇだろ!こいつはここで処分する」


「アルベール!!ダメだ!!」


「あああぁぁぁぁあああ!!!」


リュカが叫び、アルベールに飛び掛かったので反射的に引き金を引いてしまった。

撃ち出された銃弾はリュカの額を貫き、後頭部が炸裂する。


「いやぁぁああ!!」


エリーゼとジュリーが悲鳴を上げ、リュカはアルベールの足元に倒れた。


「…これは、一体何が?」


遅れてやってきたアドルフが誰とはなしに尋ねたが、すぐに答えられる者はいなかった。


ロドリグとレナルド、アドルフはアルファン家の玄関を開けて絶句する。リビングは血の海となっていて、ソファーには麻袋を頭に被せられた人物が力無く座っている。その首は綺麗に掻き切られ、腹は裂かれ、内臓が無かった。

ロドリグが恐る恐る麻袋を外すと、その下から見知った顔が出てきた。


「アダム…」


そう言って彼は膝から崩れ落ちた。

平穏は、1日として持たなかったのだ。




「何があった…」


ベッソン家に戻り、レナルドはアルベールに尋ねた。


「……実は、昨日ここに来たってのは俺なんだ」


「え…お前が盗みを?」


「違う!俺は…相談事があって来たんだ」


「真夜中に?」


「ああ、そうだ。それで、銃弾に驚いて逃げた。まさか兄貴がベッソン家を守ってるなんて知らなかったしな」


それもそうだ、とアドルフは心の中で思った。

ずっとここにいる自分でさえもそのことは知らなかったのだ。三年前ここに戻ってきたアルベールが知るはずもない。


「それで、昨夜、兄貴に呼び出されたんだ。話があるってな。俺はもちろん昨日ベッソン家に行ったことだと思った。でも、兄貴は俺が人狼だと疑いやがった」


「……」


「いや、そりゃそうなるよな。兄弟つっても、一緒に育ったのは俺が三歳になるときまで。両親が離婚して別々に生活してたし、今更仲を深めるなんて無理だったんだ」


アルベールは吐き捨てるようにして言った。


「言い合いの喧嘩になって、そのまま家を出た……けど、疑われたままなのも釈然としなくて、今朝早くもう一回家に行ったんだよ。そしたら、あの有様で…リュカが兄貴に齧りついてた」


「……」


「そっからはあんたらの見た通りだ」


そして、アルベールは口を閉じた。


「でも、それは少しおかしな話しね」


そう言ったのはエリーゼだったので、全員が彼女に視線を向けた。


「おかしいって何が」


「人狼は十八歳以下の子供には成れない」


その言葉を聞いてアルベールが少しだけ反応を示した。


「どういう……いや、確かに十八歳以下の子供は話し合いに参加できないとは聞いてるが……。人狼はどんな人物にでも成れるんだろ?」


”だからリュカは”と言葉を続けようとしたのを、エリーゼが止めた。


「精神的に未熟な子供を話し合いに参加させるのは法律で禁じられている。それは元々人狼は子供には成れないということから出来た法律なの」


「……そ、そうだったのか…」


アルベールの顔色がどんどん悪くなっていく。


「じゃ、じゃあ、なんでリュカは兄貴に……」


「……死んでいるのが、理解できなかったのかも」


ジュリーの言葉にアルベールの顔が引き攣る。


「リュカは、今年で十歳になるけど…読み書きも上手く出来ないし、理解力も……。だから、動かなくなった父親を見て心配して……」


そこまで聞いてアルベールは持っていた猟銃を落とし、頭を抱えた。


「アルベール……」


「俺は、なんてことを……」


「気が動転していたんだ……そうだろ?」


アドルフの言葉にアルベールは反応を示すことができなかった。


「……しかし、ベルトランがいなくなっていたのも気になるな…」


レナルドが話しを逸らすようにぽつりと呟いた。


「アネットのところの子供たちも結局見つかっていないし……。やっぱり人狼に食べられてしまったのだろうか?でも、人狼は一晩に一人しか食べないんだろ?やっぱり、ここには複数の人狼が居たってことなのかな?」


アドルフがそう言って首を傾げる。


「人狼の数だけ人を食べてしまったら、何匹の人狼が村に潜んでいるのか教えることになるだろ?だから、あいつらは何匹居ようとも一晩に一人しか食べないんだ」


答えたのはロドリグだった。


「ああ、そっか。そうだよね」


アドルフは納得したように頷いた。


「……ね、ねぇ」


怖ず怖ずとジュリーが口を開く。


「どうした?ジュリー」


「も、もし、リュカが人狼ではなかったとしたら……私たちの中に、人狼がいる…ってことよね?」


彼女のその一言で、部屋の空気が途端に張り詰める。


「そう、だな」


重く言葉を吐き出したのはロドリグだった。


「処刑するなら、俺を」


「何を言い出すんだよ、アルベール」


レナルドは呆れたように言った。


「俺は何の罪もないリュカを殺したんだ。だから」


「これは、罪人を裁くものではなく、人狼を裁くものだ」


ロドリグがアルベールの言葉を遮って言った。


「そうかもしれないが!」


アルベールは顔を上げ、ロドリグを睨みつける。


「……そうやって、疑いを逃れる気?」


「は…?」


震えた声でそう言ったのは、ジュリーだった。


「アルベール、貴方は本当に相談するためにベッソン家を訪ねたの?」


「そ、そうだよ!」


「真夜中に?一体、その相談事って何?」


聞かれて彼は言葉に詰まる。


「本当は誰かを喰い殺すためにベッソン家に行ったんじゃないの?」


「そんなわけないだろ!?」


「じゃあ、相談事って何?」


「い、言えるわけないだろ……他の誰にも聞かれたくないから夜中に訪ねたわけだし…」


語尾を濁して言うアルベールを見つめるジュリーの目は冷ややかだった。


「……アダムがベッソン家を守ってると知って、先にアダムを殺すことにしたんじゃない?その罪をリュカに着せるため、あんなこともして…」


「ふざけんなよ!なんで、なんで俺がそんなこと!それに、アダムは俺の兄貴だ!ここに越してくるときも力になってくれたんだ、その兄貴を殺すわけっ」


「人狼なら兄貴なんて関係なく殺すでしょ?」


「……ジュリー…お前…」


怒りを露わにし、握り締めた拳が小さく震える。


「落ち着け、二人とも」


二人の間に入ったのは、ロドリグだった。


「アダムもアルベールも表立って仲良く振る舞ってはいなかったが、二人は紛れもない兄弟でアダムもずっとアルベールのことは気にかけていた。ただ、正義感の強いアダムのことだ。深夜に我が家を訪れたアルベールに対して不信感を覚えたのかもしれない」


「違う。そうじゃない」


アルベールがロドリグの言葉を遮るように言った。


「兄貴は、俺を人狼だと思った。だから、弟を返せと言って脅して来たんだ。俺がその弟だって言っても聞く耳を持たなかった……」


「そうだったのか……」


「アルベールじゃないなら……ロドリグさん、あなたが人狼?」


「ん?お、オレ?」


急に話しの矛先を向けられたロドリグは、あからさまに動揺する。


「貴方は誰よりもここにいる人たちのことを知っている。そして、人狼についても……。アダムを殺せば、動揺したアルベールが奇行に走ることも容易に想像ができたんじゃない?」


「何を言うんだ、ジュリー。オレは人狼じゃない!」


「集落を取り仕切っている人だから、話しを仕切っている人物だから疑われないって思ってたんでしょ?」


「そんなこと!だいたい、人狼に詳しいならエリーゼも」


「エリーゼは四年前にここに来たのよ?集落の中のこと、人間関係、知らないことも多いはず。何より彼女は、アダムとアルベールが兄弟なんて知らなかったはずよ。そうでしょ?」


「え、ええ」


エリーゼは小さく頷いた。


「ファミリーネームも違うし、赤の他人だって思ってたわ。だから、私もアルベールが怪しいって思ってたけど……」


「両親が離婚して、兄貴は親父の名前を俺は母親の名前をそれぞれ継いだからな。そうか、確かに、そこまで知っていて行動に起こせるのはあんたぐらいか」


「ま、待て!どうしてそうなる!?違う!オレじゃない!!」


「今日の流れを見れば、アダムを殺し、リュカにその罪を着せようとしたアルベールが一番怪しいけど。ここまで生き残った人狼がそんなあからさまな行動をするかしら?」


ジュリーの言葉にロドリグは怒りを露わにさせる。


「全く関係無いと言うように、ベラベラと喋る人の方が怪しいんじゃない?」


「違う!オレじゃない!アルベールは自分をいつまでも子供扱いするアダムに苛立っていたじゃないか!」


「ほら、本当によく知ってるじゃない。そういう言葉を並べ立ててアルベールを人狼にするつもりだったんでしょ?」


「ち、違うと言っているだろ!?」


「さぁ、投票と行こうじゃないか」


アルベールがそう言って、ゆっくりと立ち上がった。


「待て!まだだ!!」


動揺したロドリグが吐き出す支離滅裂な言葉は無視され、投票は行われた。


「アルベール二票、ロドリグ四票……」


「嘘だ!!」


「お前が人狼だ、クソ野郎。よくも兄貴を殺しやがったな!!」


「違う!!オレじゃない!!」


脱兎の如く逃げ出すロドリグの背中を、アルベールは素早く撃ち抜いた。

崩れるように倒れるロドリグの姿からアドルフは目を背け、レナルドはただじっと見つめていた。







(生き残ったのは、エリーゼ、ジュリー、アルベール、兄さん……)


アドルフは父親の亡骸を埋めながら考える。


(あのとき、アルベールに二票いれたのは僕と父さん。そして、父さんに入った四票はエリーゼ、ジュリー、アルベール……兄さん……)


彼は隣で黙々と父親に土を被せている兄の顔を見る。


「何か、言いたげだな」


兄は何かを察して弟の顔を見返す。


「どうして、父さんに票をいれたの?」


弟は包み隠さず尋ねた。


「あの現状であれば誰だってアルベールを疑うさ。それでアルベールが人狼だっていうなら、あからさま過ぎる。ここまで生き残った人狼がそんなヘマをすると思うか?」


「……」


「なら、その裏を掻く。俺はジュリーのその考えに乗っただけだ」


「……兄さんは、どうしてそうも冷静でいられるんだ?僕には理解出来ない。今でもなんで兄さんが父さんを裏切ったのか」

「俺は親父のことが嫌いだった」


兄は弟の言葉を遮って言った。


「兄さん……」


「きっと、親父も俺のことが嫌いだったんだろう。似た者同士だからな。お前は顔が良いから気に入られていたみたいだが……」


「……」


「子供のときは親父からよく殴られてたし、蹴られてた。大人になってからそれは無くなったが、何でもかんでも俺のせいにして難癖付けてきた。そんな親父が俺は嫌いだった。それにな……」


手を止め、弟の顔を見る。


「お前の母親がいなくなったあの日、父さんは笑いながら酒を飲んでた」


「え……」


「お前も知ってるだろ?俺とお前は母親が違う。俺たちは異母兄弟ってやつだ」


「もちろん、知ってる……けど、自分の母親については……」


「お前の母親の名前はリリーアン。お前をいつも愛おしそうに抱きしめていて、よく窓の外を見ていた。そして、ある日、お前を抱いて家から飛び出したんだ」


「そんな……」


「逃げるにはうってつけの新月の夜だった。親父やアダムが探しに行ったが、結局、お前の母親は見つけられず……。親父たちは草の間に置き去りにされたお前だけ連れて戻って来た。そして、親父たちは”また逃げられた”と笑いながら酒を飲んでいたんだ」


「……」


それは、初めて聞く話だった。


「その日から俺は親父に対して不信感を抱いていたし、嫌悪感を持っていた。でもな……」


兄は顔を上げ、夜空を見上げる。


「人狼だったんだ、親父は。だから、自分の子供にも平気で暴力を振るったし、逃げた女のことも気にせず笑って酒を飲んでいたんだ……」


「兄さん……」


「……さぁ、戻ろう。夜もだいぶ冷えるようになってきた」


「……ああ」


山を下りる兄の背中を見つめる弟の目は、冷ややかでどこか哀愁の色を帯びていた。




この作品はいかがでしたか?

60

コメント

3

ユーザー

忙しくてすぐには読めず… やはり先が気になるし、面白いです!

ユーザー
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