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クーインのもう一つの人格から声がかからなくなってから一ヶ月が経過した。
その間、クーインは何故か寂しいと感じることなく、むしろ新鮮な気持ちであった。
今までは選択をするとき必ず声がかかり、従っていた。
だが、指示を出してくる声はもうかからない。
だから、クーインは自分の欲求のまま行動した。
クラス内で友達が欲しかったから声をかけてみた。アルトを少し困らせたかったのでクラスであえてボッチにしてみた。授業に出るのが面倒くさかったので、サボってみた。
これらの行動は決して褒められたことではない行動もある。
しかし、クーインにとっては初めて体験したことであり、クーインは初めて自由というものを感じた。
まぁ、それでもクラス内で過ごす以外は親友であるアルトと過ごしたが……。
そんな自由な時間を過ごしたクーインであったが、ある日を境に少しずつではあるが変化していった。
胸をモヤモヤするような不思議な感覚。
あまり気にするほどではないと思ったが、それでも何がクーインは嫌な予感がした。
だが、残念なことにその予感が当たってしまった。
日が経つにつれ、その感覚は体全体に広がっていき、何故か自分の感覚が離れていく。
クーインはこの不可解な現象に嫌な予感がした。
そんなある日、アルトからクエストを一緒にいかないかという誘いがきた。
クーインは思うことがあったが、この時期お金が必要だった。
クーインは平民だ。
だから、稼げるだけ稼ぎたいと思い、アルトと依頼に同行した。
アルトと受けた依頼は討伐依頼だった。
アルトとクーインは入学前からコンビを組むことが多く、戦闘での連携はもちろん、戦術、実践経験もあり、ランク以上の魔獣の討伐も容易かった。
クーイン自身始めは恐怖心があったが、アルトの考えた戦術が開始と同時に無くなった。
アルトがいれば大丈夫。
信頼しきった唯一無二の親友がいたため。
依頼はあっさり終わり、報酬も高額だったこともあり、いいこと尽くめだった。
そしてその日の夜。クーインはそんな親友に相談を持ちかけた。
『なんで君は運命を跳ね除けてられたのかなって』
それはクーインにとってふと気になった疑問であった。何故アルトはこのような偉業を達成できたのか。詳細は何も分からないし、断言もできない、クーインは純粋な疑問。
才能に恵まれなすぎたアルトが何故、普通なら心が折れてしまいそうな状況でそこまで自分を高められたのか。抗い続けられたのか。
クーインが同じ立場なら無理だったかもしれない。
だからこそ聞いてみた。
『クーインの言う運命を切り開くと言うのが、自分のいる立ち位置に満足できなくて、足掻いて結果を求める。その観点からなら言えるよ、俺の場合がそうだったし』
『どうしても達成したい目標があった。でも、それを達成するには俺は才能がなさすぎた。本来なら諦めていたかもしれないけど、それでも諦めきれなかった。だから、死に物狂いで訓練をした。さまざまな工夫をした。出来る可能性を必死に探して、僅かな可能性に縋り続けた。それらが相まって今の俺がある』
帰ってきた回答はいたってありふれていた。それでも、それを体現したアルトが言うからこそ説得力があった。
『クーインが何に悩んでるのか知らないけど、まずはできることを探して、行動してみたらどうかな?』
最後にアルトにそう言われ、クーインは少しだけ勇気が持てた。
だが、そんな決意とは裏腹にその日を境にクーインの自我はもう一つの人格は完全に支配されてしまった。