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ガツン…ガツン…ガツン…
重く硬く、金属同士が撃ち付けられる足音を立てながら
男が一人、無機質な機械と金属質の壁に囲まれた通路を進む。
通路は薄暗く、僅かな非常灯と黄色の回転灯が一定の間隔で男の顔を照らす。
男が纏うそれは武装か、装甲か、又はその両方か
首からつま先まで、一辺の隙間なく重厚な黒のアーマースーツに身を包み
所々、淡く蒼い光を発している事からそれが何等かの機械的な装備である事が伺える。
時たま照らされるスーツの表面は焦げ目や金属が擦り切れた跡
過酷な状況を経て来た痕跡が全身至る所に見られる
「状況は」
男が発した声には、子供の様な幼さも、年配者の様な老いも感じられない、青年の物だった。
『メイン動力ダウン、現在補助動力にて稼働中。 全武装の68%使用不能。
下部、第三装甲隔壁に損傷、しかし、船体構造維持に支障無し。
現在メンテナンスドローンにより動力部の修復作業を優先して実行中。24時間以内に復旧予定。』
何処からともなく、女性の音声によるアナウスが通路に響き渡る
「他に帰還した者は」
『今作戦に於ける当艦の帰還者は、LG03、貴方だけです』
「…随行支援していた他のガーディアン隊はどうなった」
『LG03がゲート施設に突入後、反応をロスト、MIAと認定。
共に同部隊、母艦アルタイル、並びにオケアノスの轟沈を確認。
現在戦略兵器投入の余波により、軌道上に強力な電磁障害が発生中。
その他の衛星軌道上の部隊の状況は—・・・』
「もういい、分かった…」
何処か辛く、ただ疲れた様に、青年は音声の報告を遮った。
『人類連合本部よりレーザー通信が入っています。
LG03は最寄のブリーフィングルームへ向かって下さい』
「…」
ガツン…ガツン…ガツン…
何も答えず、歩みを続ける。
やがて一つの隔壁ハッチの前まで来ると立ち止まりそれに反応し、幾重に装甲の重なったハッチが開く
中に入ると、やはり照明は機能しておらず薄暗い。
そこには数十名は掛けれるであろう長テーブルや席がずらりと左右に並んでおり
その先中央に設置された大型モニターの光が、部屋全体を照らしている。
ガツン…ガツン…ザッ…ギンッ!!
青年はそのままモニターの前まで歩み出ると
その場で金属のかかとを鳴らして敬礼の姿勢を取る。
モニターに映し出された人物もまた、敬礼を返し
ゆっくりと手を下げる。
【良くぞ帰還してくれた、先ずは任務達成、ご苦労。
人類の悲願であるゲートの奪還・封印は成った。
24世紀末、異次元生命体が地球に出現して以来、約300年
初めて人類は、奴等に戦略的勝利を収める事が出来た。】
モニターに映った者がゆっくりと語り始める。
金の惣の刺繍が刻まれた鍔付きの制帽を目深に被り
顎に貫禄のある白髭を蓄え、軍服の胸元にびっしりと勲章を着けた初老の男が映し出されている。
【だが、既に時は遅過ぎた…人類は疲弊し過ぎたのだ。
今作戦終了後に於ける残存戦力を分析した結果、 残された戦力ではゲートの維持防衛は不可能と判断され
よって司令部は第二プラン…ハルマゲドン計画への移行を決定した。】
本来なら何十人も者が入れる部屋にただ一人
モニターの光が青年の影を背に延ばす。
その左右にずらりと並ぶ席に着く仲間は、もう誰も居ない。
【本当に諸君らは良くやってくれた…
人類の総力を挙げたこのゲート奪還作戦に於いても
多くの犠牲を払いながら最終的にそれを成し遂げた。】
黒の強化装甲に包まれた、青年の拳が震え、僅かな軋み音を上げる
【数世紀に渡り、何度と無く絶望的な戦局を覆し続け
正に人類の守護者そのものとして、その任を全うした。】
「………」
青年は視線を下げ、食い縛る顎に力が籠る。
【それ程の、諸君らの奮闘と犠牲、献身の末に、 この様な手段しか執れず現人類代表として、誠に申し訳無く思う…】
(違う…誰かのせいだと言うのなら、それは俺の…)
【司令官として…そして私個人として、今一度あなたに感謝を申し上げる。
本当にありがとうございました。】
(…!)
青年より遥かに年上であろうその男が、そっと軍帽を外して脇に持ち
直立して姿勢を正し、モニター越しに深く頭を下げた。
男性の予想外の行動に青年は、はっと顔を上げる
モニター先で顔を上げた、その男性の穏やかな表情には
以前、戦場の一つ手を差し伸べた少年の面影があった。
それがどの戦場だったのか、どれ程昔だったのか思い出せない。
(そうか、彼は…)
しかしその真意を訪ねる間も無くモニターの向こうで男が軍帽を被りなおした。
【人類連合本部より最後の命令を伝える!現時刻を持ってラストガーディアン隊
並びに残存する全ガーディアンズは無期限の超長期間凍結を実施せよ!】
その風貌は再び、総司令の厳たる物に戻っていた。
『南米に展開中の敵集団動きありッッ
目標北米ゲートリアクター2号炉と推定!』
『ユーラシア方面にて同様に大規模な活動の兆候!!』
『極東リアクターにても同様に—ッ!!』
その背後で慌ただしくオペレーター達による
報告が途切れる事無く交わされる中
司令官の男は動じる事無く、モニター越しに見つめ続ける
【地球環境の回復まで、一体どれ程の年月がかかるのか…
その時まで生存出来る人類は居るのか何も保障出来ない…
だが…
諸君らが何時の日か、目覚めた時
そこにもし、人類が一人でも生き延びているのならば…引き続き諸君らの使命を果たせ!
我ら人類の最高戦力を、未来に託す!、以上だ!】
青年は、再びかかとを鳴らし、モニターに向け敬礼を捧げる。
モニターの先の男も、またゆっくりと青年に敬礼を返すとゆっくりと背を向け…
「残る全戦力は各ゲートリアクター防衛に回せ、全てだ!
ゲートが落ちれば全てが水泡に帰す!
何としてもハルマゲドン発動まで持たせろ!
ただちに次元掘削爆雷投下!封印作業はステップ88まで省略!急がせい!」
周囲に居ると見られる者達に指示を飛ばすのを最後に通信が打ち切られ、モニターは闇に染まる。
部屋は僅かな非常灯の薄明かりのみに包まれた。
『LG03は速やかにメンテナンスポットへと移動して下さい
補給・修理完了後、当艦は無期限の超長期凍結モードへと移行します。
繰り返します—…』
青年の背後にある、装甲ハッチが圧搾音を立てながら、ゆっくりと開く
黄色回転灯が照らす、機械に囲まれた通路へと再び
青年は、重い金属を打ち合わすような足音を立てて進んでいく。
――何時の日か…目覚める日あれば…――
―― そこにもし、人類が一人でも生き延びているのならば…――
――引き続き諸君らの使命を果たせ!――
先程の内容が、青年の頭の中で反復される。
「…了解した」
静かに、しかし確かな意思を込めて彼は呟く
そして、兵士は何時目覚めるとも知れず
幾百万の星の流れに抱かれ、永き…永き眠りに就く。