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(まったく、なんて茶番なの!)
ナタリーも、カイル同様呆然としていた。
騙していたと思い込んでいたロザリーに騙されていたなんて。
それも、男絡みという厄介さ。
キャプテンのもくろみは、見事に崩れる訳だが、そこは、キャプテンが歯軋りして悔しがっていれば良い。
問題は、ナタリー自身の立場だろう。
思い起こせば、カイルが用意した偽の依頼に乗せられ、はたまた、依頼人のカイゼル髭にやられたとカイルと地団駄踏んで、恋人気取りで逃避行。
しかし、そこからもう、ロザリー含むフランス側が絡んでいたのだ。
カイルのこと、自らナタリーを使った計画を、フランス側へ持ち込んだのかもしれない。
もちろん、色仕掛けでロザリーに近づいて。けれど、カイルも知らぬうちにロザリーから色で仕掛けられていた。
まっ、そこは、ほっとけ。カイルの身から出た錆という話になる。そこまでで、ナタリーは思考を停止した。
いや、停止せざるを得なかった。またもや、厄介な事が起こるのではなかろうかと思ってしまうほどの勢いでドアが開かれたからだ。
正しくは、ドアがキャプテンによって蹴破られていた……。
「皆の視線に答える!ドアは、ノック変りに蹴りを入れた!悪いか!」
(……もう帰ろう。)
ワイナリーだ離宮だ、ガッポガッポなどと甘い言葉に惑わされてはいけない。
キャプテンの登場は、ナタリーに、しっかり諦めを感じさせるものだった。
結局、皆、グルでナタリーを調子良く動かしていた。と、いうこと。
「よう!調子はどうだい?」
キャプテンは機嫌良く言ってくれる。
ちょっと目いい男の容姿を利用して、こいつも、ナタリーに近づいて来た。まあ、それは、分かっていたことだが、ここに現れたということは、実はキャプテンも、フランス側の人間だったということだろう。
「あら、声をかける相手が違うんじゃない?キャプテン?」
究極のタダ働きをさせられたのだと、悟りきったナタリーは、少しばかり反撃に出た。
キャプテンは、確かにカイル経由で動いていた。それでもわが道を行くとみえていたのだが……。
結局、ナタリーを騙していたのか。そして、何も知らずに皆の口車に乗せられ、動いている姿を笑って見ていたに違いない。
傾国のナタリー惨敗。残念だが、今回は認めるしかない状況だった。
「いや、まあ、なんだ。宰相ともなんとか上手くいっているようで、よかった。ロザリー」
キャプテンは、その品祖な体で色仕掛けは無理だろうと心配していたのだとロザリーへ言い切った。
それを聞いた宰相は、ふんと鼻であしらい、
「まあ、体はいまいちだったが、若いからな……」
などと、キャプテンへ言っている。
(ちょっと待て!!ロザリーにかっ?!)
ナタリーは今にも叫びそうになっている。
てっきり、キャプテンはカイルへ声をかけるものだと思っていたからだ。
まさか、キャプテンまでロザリーと手を組んでいたなんて。
今起こっていることは、なんなのだろう。
キャプテンはナタリーに宰相を落とせと言ったはず。そこへ、なぜ、ロザリー?!
完全な、安全パイ……。
目眩のような敗北感がナタリーを襲った。
ロザリーがしくじった時の為に、予備として用意されていたと……。よりにもよって、ロザリーのしくじり対策の要員だったとは……。
「ナタリーなんというか、ご苦労だったね」
そこへ、マーストン卿がボツりと言った。
「ちょっと待った!」
ナタリーの側からカイルがしゃしゃり出る。
(お前は、とにかく、黙ってろ!)
妙な怒りの感情がナタリーへ沸き起こっているのは何故だろう。
そう、発端はこの男、カイル。この男がいなければ、きっと、こんな茶番に巻き込まれる事もなく、引退などと縁起でもない事を真剣に考えることもなかったろう。
「そもそも、あんたが、アメリカへ渡るだ、国庫の金を使い込むだ、王位継承一位らしからぬ行いをするからだろうがっ!挙げ句、できもしないのに宰相を手玉に取ろうと目論んで!」
だから、俺が、国のためを思いあれこれ動いたのだと、カイルはマーストン卿へ噛みついている。
「あんたが、つべこべ言わず、すんなり皆の思惑通りに動いていれば!俺だって、こそこそ動く必要もなく、そして!ハニーとすんなり結婚できたんだっ!なんなんだよっ!このごたつき具合わっっ!!」
(いや、カイル。このごたつきを作ったのは、あんたでしょうがっ!)
ナタリーの堪忍袋は、もはや、ズタズタに切れている。
思わず、唯一しらけきっている、フランス野郎へ視線を送り、
「私は、降りる。というより、そもそも、関係なかったでしょう?帰らせて頂くわ」
などと、粋な女を演じて見せた。
ところが、フランス野郎はナタリーに、返事する訳でもなく、こともあろうにポケットからシガーケースを取り出すと、紫煙をくゆらせ始める。
その姿に、ナタリーは思う。
フランス側の任務は成功したのだと。
深いことは分からないが、要するに、彼らはマーストン卿を即位させたかった。
そこに国益なるものが発生するだろうが、どうゆう利潤や効果があるのかまでは、もちろん、ナタリーには見当もつかない。
いや、それが分からないからこそ、ナタリーはこうして、輪の中から弾かれている。でも、そうであるから、まあ、部外者として扱ってもらえ命まては取られないなる大事には至らないのだ。
ただの通りすがりの女で入れる事が、実はナタリーの安全が守られている訳でもある。
と、思ってもよいのだろう。
フランス野郎が、プカプカ煙草を吸っているということは、ナタリーなど眼中に無いということだ。
やはり、撤退あるのみ。下手な欲を出し、こじれまくって身柄拘束なんて事になってしまったら、洒落にならない。
一応は、ナタリーも事の顛末を見ている。そして、ここにいる、ということは、まさしく、裏側を見てしまっているということ。
奴の気が変わらないうちに、ずらかるかと思いきや、隣でカイルが吠えてくれた。
「ハニー!また一人で帰ろうとしているんだろっ?!だめだ!俺たちは一生一緒にいるんだっ!」
ああ、なんでこの男は、この場に及んで邪魔をしてくれる。
冷えた視線をナタリーはカイルへ送るが、何を血迷っているのか、相続分の離宮でワイナリー経営をしようとやっきになっている。
また、なにを言い出すのかとナタリーは呆れ返るが、ちょっとまて、と、自身に言い聞かせた。
──相続分の離宮……。
カイルは、離宮持ちなのか?!
言っている以上、それは本当なのだろう。
ナタリーは極上の笑みを浮かべた。
体の中を巡る、その名も傾国のナタリーの血が、ここぞとばかりに動き出していた。