(~~~~……っ、エアキスもなかなかの威力が……)
「んー……っ!」
照れて悶えた私は、拳でポカポカと尊さんの胸板を叩く。
「あんまり可愛い反応するなよ。襲いたくなる」
尊さんは私の頭を撫で、微笑む。
「ん……、へへへへ……」
「なんだよ、さっきから締まりのねぇ顔して」
「だって……。尊さんも好きでしたけど、〝忍〟と恋人になれたんですよ? 私は大人の女性になって、キスもセックスもできるんです。…………嬉しいじゃないですか」
「……ん、そうだな」
尊さんは私の背中をトントンと叩く。そのあと天井を仰いで溜め息をついた。
「……そっか、あれから十二年か。お互い大人になって、何をしても許されるようになったよな」
「そうなんです。だから嬉しくって。大人になりましたし、メイクだってしますしね」
「じゃあ、プレゼントリストにコスメも入れておくよ」
「えっ? いいですよ。これ以上贈り物をされたら申し訳ないです」
「でも好きなんだろ? それにコレクターって新商品が出たら欲しくなるだろうし」
「そ、それはそうですけど……」
コスメの世界は一年があっという間で、一月になれば春コスメの発表があるし、下手すると夏コスメも出てくる。
ブランドでレギュラーの入れ替えがあるほか、限定品も出てくるので気が抜けない。
本当は全部欲しいけれど厳選して買い、けれど使い切る間もなく次を買ってしまうので、家の中はコスメだらけだ。
「……じゃあ、欲しいの考えておきますね」
「遠慮するなよ。気になったのあったら、リストアップしてメッセージしろ」
「……パパ活みたい……」
ボソッと呟くと、尊さんが「誰がパパだ」と真顔で突っ込んだ。
「嬉しいけど、収納ちょっと整理しないと」
そう言うと、尊さんは「そうか……」と顎に手をやって考える。
「やっぱり同棲する時期を早めたほうがいいのかもな。うちに住んだほうが広く使えるだろ。俺も空間を持て余していたし、二人で住めばもっと有効利用できると思う。シューズクローゼットなんて半分も埋まってないしな」
そこまで聞いた私は、疑問に思って尋ねてみた。
「尊さんって欲しい物ないんですか? その気になれば何でも買えそうだけど、あの家ってそんなに物を置いてなかったですよね」
思いだす限り、彼のマンションはとてもスッキリしていた。
収納に物をしまっているだろうし、家政婦さんが片づけしてくれているのは分かるけれど、シンプルすぎるほどだ。
「気に入った物を買って、一年経ったら新しく買った物と比べて、古い物を要るか要らないか判断して捨ててる。あとは映画や音楽関係とかの娯楽に金を使ったり、美容でちょいちょい」
美容と言われて納得した。
尊さんはナチュラルに眉毛が整っているし、お肌も綺麗だ。加えて爪は短く整えられている上にやすりで手入れしているみたいで、触れた時の引っかかりもない。
ジムで体を鍛えているのはいわずもがな、いい匂いのするイケメンだし……。
愛用している香水は、ジョー・マローンのウード&ベルガモットらしい。
営業だと見た目も大切だから男性も眉毛を整えにくるとサロンのお姉さんが言っていたし、高級寿司屋の大将とかも、ネイルサロンに行って整えていると聞いた事がある。
(できる男ほど、見た目や清潔感に気を遣っているのかな)
納得したあと、私は彼の欲しい物を探るためにさらに尋ねる。
「他は何かお金使ってます?」
「飲食は町田さんの飯で満足してる。あとはたまに友達と遊ぶ程度かな。美食は好きだが、食いすぎると落とすのが大変だし。百八十四センチメートル、七十四キロの今がベストだ」
体重をきちんとコントロールしてるの、さすがだなぁ……。
意識の高い言葉を聞いた私はスンッと真顔になり、無意識に自分のお腹に触れた。
「わ……私だってストレッチとかスクワットしてるし……。夜中のカップ麺はちょっとだけだし……。コンビニピザまんも週一だし……」
負い目のある私は、尊さんから視線を外してブツブツ言う。
それを聞いて尊さんがフハッと笑った。
「別に責めてねーだろ。お前は『うまいうまい』って飯を食ってりゃいいんだよ。体型を好きになった訳じゃねぇんだから気にすんな」
「そうやって甘やかしたら、つけ上がるからやめて!」
悲鳴じみた声で拒絶すると、尊さんはニヤァ……と悪く笑った。
「んー? 甘やかしたらお前がどんだけ駄目人間になるか、見てみたいなぁ」
「イヤアアアア! ヤメテ!!」
ゾワッとした私は悲鳴を上げ、ポーチにコスメをしまっていそいそと洗面所を出る。
「待てよ、オラ。望みを叶えてやるから言え」
「ランプの魔神、押し売りバージョン!」
尊さんは私を捕まえようとし、私は広いリビングダイニングを逃げ回る。
コメント
2件
12年間想い続けてやっとできた可愛い恋人に、何でも買ってあげたくてたまらない甘々ミコティ😂💝✨
🤭ランプの神押し売りバージョンに いつもウケてしまう。。。ꉂ🤣𐤔