テラーノベル
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数日後、再び開かれた世界会議のロビー。イギリスはいつも通り、仕立ての良いスーツに身を包み、資料を抱えて歩いていた。少し早めに着いた彼は、顔見知りの国を見つけて「おはようございます」といつもの敬語で声をかける。
しかし、返ってきたのは、弾かれたような冷たい沈黙だった。
「え……?」
挨拶された国は、まるで汚いものでも見るかのような目を一瞬イギリスに向け、何も言わずに背を向けて立ち去ってしまった。
「な、何でしょうか……。私、何か失礼なことでもいたしましたか?」
イギリスがぽつりと呟き、困惑して周囲を見回す。いつもなら「親父、おはよう!」と真っ先に駆け寄ってくるアメリカすら、遠くから複雑な、どこか値踏みするような視線を向けてくるだけで、近寄ろうとはしない。ロビーのあちこちから、ひそひそとした囁き声が聞こえてくる。
『本当にやったのか?』
『裏でそんな汚い計画を立てていただなんて……』
『信じられないな、紳士の面皮を被った悪魔だよ』
「皆さん、一体どうされたのです? 私に何か用があるなら、はっきりとおっしゃってください」
イギリスが声を張るが、誰も目を合わせようとせず、不自然に距離を置くだけだった。他人の悪意に慣れていないイギリスの眉が、不安げに下がる。
「困っているようだね、イギリス。僕の可愛い迷子さん」
背後から、優しく肩を抱くようにして声がした。振り返ると、フランスがいつもの艶然とした微笑みを浮かべて立っている。
「フランス……! あなた、一体何が起きているのか知っているのですか? 皆さんの様子が、明らかに不自然です。私、まるで透明人間にでもなったかのような……」
すがるような、けれど気丈さを保とうとするイギリスの潤んだ瞳が、僕を見上げる。その健気な姿に、僕の心臓は醜く跳ね上がった。
計画通りだ。みんな、僕が流した『嘘のハッキングデータ』をすっかり信じ込んでいる。
「……場所を変えようか。ここでは耳目が多すぎる」
「え? ですが、もうすぐ会議が――」
「いいから。僕に来て」
僕はイギリスの細い手首を少し強引に掴み、誰もいない奥の応接室へと連れ込んで、重い扉を閉めた。
「ちょっと、フランス! 痛いです、離してください。そこまで焦って、一体何のご冗談ですか」
手首を押さえながら、イギリスが怒混じりの戸惑いを露わにする。僕はわざと深くため息をつき、ひどく痛ましいものを見るような目を彼に向けた。
「冗談なら良かったんだけどね。……イギリス、君、ネットでどんな噂が流れているか知らないの?」
「噂……? 何のことですか。私はSNSの類いはあまり見ませんし……」
「本当に鈍感なんだから。君が『裏で他国の機密データを盗んで、経済的に破滅させようとしている』っていう証拠の音声と文書が、世界中に拡散されているんだよ」
「は……!?」
イギリスの顔から、一瞬で血の気が引いていくのが分かった。
「な、何を馬鹿なことを……! そんな根も葉もないこと、私がするはずがないでしょう!?」
「僕だって信じたくないさ。でも、その音声、君の声にそっくりなんだ。データの偽装もプロの仕業でね……みんな、君がかつての『大英帝国』としての牙を剥いたんだって、怯えて、嫌悪している」
「そんな……嘘です、私は、私は何も……っ」
イギリスの敬語が乱れ、呼吸が浅くなる。必死に否定しようとするが、周囲のあの冷たい視線の理由を理解してしまい、言葉が続かない。
僕はそっと一歩近づき、怯える彼の両肩に優しく手を置いた。
「分かっているよ。君がそんなことするはずがないって、僕だけは知っている」
「フランス……、あなたは、私を信じてくれるのですか……?」
「当然じゃないか。僕たちがどれだけ長い付き合いだと思っているの? たとえ世界中が君を犯人だと指差しても、僕だけは君の味方だよ、イギリス」
優しく、甘く、鼓膜を震わせるように囁く。イギリスの綺麗な瞳に、じわりと涙が浮かぶのが見えた。
「ありがとう、ございます……。私は、本当に、何もしていなくて……どうして、こんなことに……っ」
「可哀想に。誰かが君を陥れようとしているんだ。酷い奴らだね。でも安心して、僕が一緒に犯人を探してあげるから」
嘘だよ。犯人は君の目の前にいる、僕さ。
「は、はい……。お願い、します……。私、どうすればいいか、分からなくて……」
すっかり弱り切って、僕の胸に額を預けてくるイギリス。その無防備な温もりに、僕の口元は歓喜で引き攣りそうだった。
もっと怯えて、もっと傷ついて、僕以外を全員敵だと思い込んで。
そうして、僕の腕の中から二度と抜け出せなくなればいい。
「大 丈夫、大丈夫だよ、イギリス。君には僕がいる。僕だけが、君を愛しているんだから……」
背中を優しく撫でながら、僕は誰もいない部屋の鏡に映る、自分の邪悪な笑顔を見つめていた。
コメント
1件
わあ…ずもんさん、今回も本当にぞくっとしました。フランスが「僕だけは君の味方だよ」って優しく囁くシーン、その言葉が真実じゃないって分かってるからこそ、背筋が冷たくなるような怖さがありました。イギリスの敬語が乱れていく細かい描写に、彼の焦りと混乱がすごく伝わってきて、胸が痛かったです。フランスの“計画通り”の笑顔、次はどう動くんだろう…続きが気になります!
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#カンヒュイラスト
K
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akusennkutou
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