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◻︎みんなで!
夫の実家に戻り、月子の家でみんなでパーティーをしようということになった。私は、私が感じた月子の様子を話した。
「お義母さんから少し聞いていたから、わかった気がしたの。なんていうか、寂しいんじゃないかな?将来のことも不安だし。だから、月子さんちでみんなで集まると元気になるかも?って」
「そんな簡単なものなのか?」
お義父さんが言う。
「わからない、でも、ほっとけない。すぐには解決しなくても道筋が見えればいいかなと」
「その前に色々片付けないといけないけどな。あの荷物も借金のことも。でも涼子ちゃんが言ってたように、それをすればなんとか前向きになるかもしれない。で、親父とお袋も手伝ってくれよ、できる範囲でいいから」
両親が顔を見合わせている。
「考えてみれば、月子が再婚してからはほとんど干渉しなかったわ。初婚が私たちのせいでうまくいかなかったから、再婚は月子の好きなようにしてほしくて、何も口出ししてないわね」
「そうだな、よかれと思っていたけど、それが突き放されたように感じていたかもな。よし、やれることはやるから、遠慮せず言ってくれ、光太郎、涼子さん」
◇◇◇◇◇
それから間もなく、みんな揃って月子の家に行った。たくさんの荷物の中からまだ開封もされていないものは、ネットで売りに出すことにして、それは綾と萌の担当になった。開封してあるものはリサイクルショップに持ち込んだ。
私は月子と二人で、ローンの明細書を確認して残高を把握することにした。お義父さんは息子《光太郎》と二人で、庭を手入れしていた。
「どう?うまくいきそう?」
「任せとけって」
ホームセンターで買ってきた耐火煉瓦を積み上げて、バーベキューコンロを作るらしい。せっかくいい庭があるのに、不用品だらけで使われていなかった。どうせならバーベキューコンロを作っておけば、今後何回も集まれるし、友達も呼べるかららしい。
もともと日曜大工が得意だと言うだけあって、お義父さんは器用に煉瓦を積み上げていた。
なんだか頼りない充《月子の夫》は、みんなのお昼ご飯を作る係らしい。共働きが長いので、料理は苦にならないとか。キッチンからはいい匂いがしてきた。
「お昼ご飯のチャーハンできたよ!」
紙皿に盛り付けたチャーハンを、みんなに配っている。
___誰にでも何かしらの特技ってあるんだなぁ
何回かそんなふうに集まって、片付けていった。1ヶ月後、見違えるようにスッキリした月子の家でバーベキューパーティを開催した。
「とりあえず、乾杯だ!」
光太郎親子が作ったバーベキューコンロには、お肉やエビや野菜が所狭しと並べられている。月子家族4人、我が家4人、それから義父母。
「こんなふうにみんなが集まるって何年振りかしらね」
「そうだなぁ、子どもが小さい時のお正月くらいか?たまにはいいな」
お義母さんもお義父さんも、うれしそうだ。
「おにぎりも用意しましたよ」
充がトレイにおにぎりを持ってきた。
「ちょうだい、焼きおにぎりにするんだから」
「私も」
「私は、お肉がいい!」
もう大きくなってしまった子どもたちも楽しそう。
「そういえば、アレはどうなったの?月子」
お義母さんが言うアレとは、この家の経済的なことだ。
「兄さんと涼子さんにも手伝ってもらったから、なんとかなりそうだよ。いらないものは売ったし、ローンもまとめた。車もね、私は小さいのでいいから、来週買い替えるの。軽バンの中古をね、自分の好きにカスタマイズすることにしたんだよ」
「僕も車、売ります。で、前から欲しかったバイクにしようと思ってます」
「へぇ、充くん、バイク乗りたかったんだ」
「はい、免許もずっと前に取ってたんで、いい機会かなと」
私は月子たちのローンの支払いの明細書を確認して、金利が高いものはできるだけ早く返そうと提案した。少ししかない貯金がなくなると不安がっていたけど、金利と利息では比べ物にならない。
「……で?月子はいつまで働かないといけないの?」
「あと半年は働かないといけない。家のローンの目処がたつのがそれくらいだから。でもね、辞めてもいいって時期がわかったら、逆にまだ働けそうな気がしてきた。だからまたそれはゆっくり考えるよ」
「へぇ、不思議なもんね。でもよかったわ」
人は、目標がないことに対してのモチベーションは保ちにくい。具体的な目標が定まれば、“そこまで頑張ればいいんだ”と気づけるし、気持ちが楽になる。そうすればもっとファイトが湧いてくる。私もそうだったから、わかる。
私は月子たちの会話を聞きながら、次々とコンロに食材を乗せていった。
「ほらほら早く食べないと、焦げちゃうよ」
取り皿に、焼けたお肉や野菜を乗せた。あちあちと首にかけたタオルで汗を拭いていたら、月子から冷たいグラスが手渡された。
「涼子さん、ありがとね」
「どういたしまして。ね、いいもの見つけたら私にもおしえて。私はそういうアンテナが弱いのよ」
「いいわよ、でも買うのは考えてからね」
「えー、月子さんが言う?」
「へへっ、だよね」
乾杯!とグラスを合わせた。冷たいノンアルコールビールが、ほてった喉に心地よかった。