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残された二人の内、レイブは明日学院に持っていく干し肉や乾燥野菜、その後は硬い岩塩の結晶を砕き続けて粉状にする作業を黙々とやり続けていたし、一方のラマスはたっぷりの干草が敷き詰められている自室、生まれて初めて与えられたプライベートルームを思う存分に満喫、まあ、簡単に言えばゴロンゴロン転がり続けて時を過ごしていたのである。
「ふぅ、これ位あれば足りるだろうな、後は薪(たきぎ)、は何とか足りそうだなぁー、良しっ、今日のノルマはクリア出来たみたいだ! 後はぁ…… ギレスラやペトラの首尾はどうなっているのかなぁ? そろそろお腹が空いてきたんだけどぉ…… おっ! 来たかっ!」
入り口の筵(むしろ)から、顔だけを覗かせたギレスラの声だ。
『レイブ、夕食の支度が出来たそうだぞ』
「そろそろだと思ったよ、こっちも明日の納品分が纏(まと)まった所なんだ! んで今日はどこで食べるんだい? 中で食べるんだったらすぐ片付けるから――――」
『いいや、今日は表で食べよう、そうペトラが言っていたぞ、トナカイのエバンガが大きいのでな、中だと狭いから可哀想なんだそうだ、だから、エバンガ用の干草も今日は表に運んで置いたんだぞ』
「そっか、今日はそうするとして今後の為にも小屋の改築が必要そうだな…… ずっと表で寝るんじゃ辛いだろうしぃ…… 明日から今まで以上に忙しくなりそうだなぁ~、っとそれはそれ、として…… おおーいラマスっ、ご飯にするから出ておいでぇっ!」
「はーい」
元気な声を返したラマスと並んでギレスラの後ろについて歩くレイブの目には、自分より数倍の背丈に大きく育った竜の背中で、リラックスした表情で寝転んでいる真っ白な雉竜の姿が映っている。
理由は定かではなかったものの、不意にワクワクとした衝動に駆られたレイブが隣を歩くラマスの手を取り、楽しそうな鼻歌を漏らすのであった。
「ふふふ、ズンドンズンドン、さあ、歩こう、歩けぇ歩けぇ、ドンドコドン、ドドドドド、ズンドコドンドコ進めや進めぇ、ドンドコドン」
「えっ? ……うふふ、うふふふ、えっとぉ、ドンドンドコドン♪ うふふふズンズンズン♪」
即興で歌を合わせたラマスの声に、前を歩いているギレスラも野太い声で合わせる。
『ズンドンズンドン、ドンドコドン♪ クハハハッ!』
『グガァ? ドコドコォッ!』
白くて小ぶりな竜もうれしそうに調子を合わせている。
「あははは、カタボラ! ドコドコじゃなくてズンドコドンドコだぞっ! あははは」
愉快そうに声を掛けたレイブは、隣でキョトンとしていたラマスの手をより強く握りこんで明るく弾んだ声を発する。
「駆けて行こうギレスラ! 俺達も行こうラマス! 走ればすぐそこだからっ!」
「えっ、は、はい叔父様」
レイブに手を引かれている間、恥ずかしいのか照れ臭いのか、ラマスは首まで真っ赤に染めていたのである。
学院の敷地を出てすぐ先の場所にその広場、草原はある。
ここと学院の中央、校舎までの間にある物と言えば、全てレイブたちスリーマンセルが管理している場所、余剰施設だけだ。
とは言え存在している施設は質素な物ばかりだったが……
レイブの小屋を過ぎた後は、大量の薪が乾かされている燃料庫と、干し肉の加工所兼保管倉庫、干草の備蓄倉庫、後は彼等スリーマンセルが呼ぶ所の養殖所、そう呼ばれる悪臭塗(まみ)れで強固な木の柵に囲まれた不気味なエリアだけである。
それらの外に有る深い空堀を越えた場所に広がっているのがこの草原であった。
「ほらここだよラマス! 見てごらん、綺麗だろ?」
「う、うん、うわあっ♪」